項目データ
初演1976年
日本初演1991年
原作三島由紀夫の長編小説『金閣寺』

黛敏郎作曲のオペラ『金閣寺』は、ベルリン・ドイツ・オペラに委嘱されて書かれました。
全3幕からなり歌詞はドイツ語で書かれています。

三島由紀夫の長編小説『金閣寺』が原作となっています。

 『金閣寺』は1950年に実際に起きた21才の青年僧による「金閣寺放火事件」を基に書かれています。
金閣寺の美に憑りつかれた青年僧が、金閣寺を放火するまでの物語です。

ベルリン・ドイツ・オペラの総監督グスタフ・ルドルフ・ゼルナーが『金閣寺』の英訳を読み感銘を受け、黛敏郎に作曲を依頼しました。
当初は黛は「金閣寺はオペラに向かない」と考え断りましたが、ゼルナーの熱意により黛も作曲を承諾したそうです。

ここでは、黛敏郎のオペラ『金閣寺』のあらすじを紹介したいと思います。

主な登場人物

人物名備考
溝口主人公で、手に障害を持つ青年僧。父から金閣寺を「美の象徴」として教わり、それに呪縛される。最後に寺を燃やし、自由を決意する。
溝口に金閣寺の僧になることを勧める。病弱で早くに亡くなる。かつて僧侶だった。
若い男と不倫関係を持つ。
道宣和尚金閣寺の和尚。父の旧友。
鶴川溝口と同期の修行僧。後に自殺する。
柏木溝口の大学での友人。溝口と真逆の人物で、足に障害があることを逆手に取り激しい女遊びをしている。

第1幕:『金閣寺』のあらすじ

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過去の回想シーンへと入る

合唱が
「溝口は手に障害のある人物で、孤独で周りに理解されていない。」
「彼はまだ金閣寺を見たことがない」
と語ります。

溝口が登場し「金閣寺は焼かれなければならない。その覚悟はできた!」と歌います。
そして溝口は過去の自分を振り返り始めます。

父が溝口に「金閣寺の僧になる」ことを勧める

病弱で年老いた父親が登場し、
「お前を金閣寺へ連れて行こう」
「金閣寺は何よりも美しい」
「そして僧になりなさい」
と溝口に語ります。

 溝口の中で、金閣寺は美の象徴として刷り込まれていきます。

心を閉ざしていく溝口

シーンは変わり、有為子(溝口が密かに憧れる女性)が登場します。
有為子の前に溝口が現れると、有為子は彼を避けて去っていきます。

有為子に軽蔑されたことで、溝口はますます心を閉ざしていきます。

 有為子は脱走兵をかくまい、射殺されてしまいます。

続いて、溝口の若い男が登場します。
二人は不倫関係にあり、その様子が悲劇的に描かれます。

 溝口は、女性に恐怖心を覚えるようになります。

初めて見た金閣寺は想像していた美しさではなかった

父は溝口を連れて、金閣寺の和尚である道宣和尚のもとに旅立ちます。

そこで溝口は金閣寺を初めて目にします。
しかし金閣寺は建設から既に500年以上が過ぎており、溝口の期待した圧倒的な美しさはありませんでした。

溝口は金閣寺の修行僧となり、病弱な父は息を引き取る

溝口は道宣和尚のもとで修業の身となります。
溝口は「想像の金閣寺より、美しくなってくれ!」と金閣寺へ虜になっている想いを歌います。

 病弱な父は溝口を金閣寺に送り届けた後、間もなく息を引き取ります。
溝口はより一層孤独になっていきます。

修行僧仲間の鶴川は、そんな溝口を励まし南禅寺へ連れていきます。
溝口は南禅寺で見かけた女性に目を奪われ、彼女と有為子を重ねます。

戦争が激化する

やがて戦争がはじまり、激しくなっていきます。

合唱が
「死と破壊が近づく。」
「戦争よ、私の代わりに金閣寺を燃やせ!」

と歌い、1幕が下ります。

第2幕:『金閣寺』のあらすじ

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戦火の中金閣寺が悲劇的に輝き、溝口はその焼失を望む

戦争により、日本には爆弾が次々と投下されます。
街は焼け野原になりますが、金閣寺はまだ残っています。

そして戦争が激化すると、金閣寺は「悲劇的な美の象徴」として輝きだします。
溝口は「金閣寺は燃える炎で輝きを増す。」と、戦火と同時に寺も一緒に燃えることを願います。
そして、「金閣寺は全てを私から隔てている。金閣寺は壊すべきだ。」と歌います。

 溝口が「金閣寺を焼こう」と考えた背景には、禅の教えがあります。
臨済宗には「仏に逢うては仏を殺せ。祖に逢うては祖を殺せ。羅漢に逢うては羅漢を殺せ。父母に逢うては父母を殺せ。親眷に逢うては親眷殺せ。始めて解脱を得ん」という言葉があります。
合唱がこの言葉を歌います。

鶴川は「溝口の悪行」に踏み込めない

戦争が終わると、金閣寺の周りには米兵や娼婦がうろつきます。
溝口は「身ごもった娼婦のお腹を踏みつけろ」と米兵に命令され、娼婦を踏みつけます。

娼婦は「溝口のせいで流産した」と金閣寺の副司(ふうす、寺の会計係)をゆすり、金を巻き上げます。
溝口は周りから冷たい目を向けられるようになります。

友人の鶴川が真相を問いただしますが、溝口はそれを否定します。
鶴川は溝口を信じます。

合唱が
「鶴川が溝口の悪に踏み込んでいたのなら、金閣寺は焼けずに済んだだろう。」
と歌います。

柏木の紹介で女を紹介してもらうが、溝口は金閣寺の幻影に襲われる

友人の柏木が登場します。

 柏木・・・溝口の大学の友人。足に障害を持つが、それを逆に利用して女をたぶらかし生きている。

溝口が女性を恐れるのとは対照的に、柏木は障害を利用して女性と遊んでいます。
溝口は、柏木に女を紹介してもらいます。
それは以前に南禅寺で見た女でした。

 かつて神聖な女性として見ていた人物が柏木の情婦となっていたことで、溝口の心はさらに捻じ曲がります。

溝口が女を抱こうとしたとき、溝口は金閣寺の幻影に襲われます。
女は溝口を嘲り笑い去っていきます。

溝口は「お前(金閣寺)がいなければ、女と私の二人だけだったのに。」と嘆きます。

鶴川が自殺し、溝口はますます狂っていく

やがて鶴川が「自殺」で命を落とします。

溝口が
「鶴川は灰になったのに、金閣寺はたっている。」
「寺を焼かなければいけない!」
と歌い、2幕が下ります。

第3幕:『金閣寺』のあらすじ

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柏木は刹那を求めるが、溝口は永遠を求める

台風が京都を襲います。
溝口は「私たち(溝口はと金閣寺)は、一緒に倒れて破滅しなければいけない。」と嵐へ向けて歌います。

そこに柏木が現れ、溝口に尺八を渡します。
柏木は「音楽はすぐ消えてしまう。私は永続しないものが好きだ。」と語ります。

 しかし溝口は、柏木とは対照的に金閣寺に「永続的な美」を求めています。

溝口が「世界を変貌させるのは行為なんだ」と語る

柏木は溝口に破滅的な何かを感じます。
そして柏木は溝口に「鶴川の自殺前の最後の手紙」を見せます。
溝口は「鶴川が、自分ではなく柏木を信頼していたこと」に衝撃を受けます。

柏木が「認識が人生を支配する」と語ると、
溝口は「人生を変貌させるのは行為だ。」「認識から芸術が生まれるのなら、私は美を憎む。」と言い返します。

溝口がついに金閣寺を燃やす

皆の幻影が溝口に語りかける中、溝口は"すべての束縛から解放されるために"金閣寺を焼くことを決意します。
そして「これで私は初めて自由になれる!」と叫び、苦悩する溝口はついに金閣寺に火をつけます。

最後に悲劇的な音楽が合唱と共に演奏され、全幕が下ります。

ちなみに最後の合唱の歌詞は、『楞厳咒(りょうごんしゅう)』が用いられています。
サンスクリット語を漢字にあてたものですので、私たち日本人では歌詞の意味は見当もつきません。
黛はこの歌詞を1958年の初演の『涅槃交響曲』でも使用しています。

 金閣寺は臨済宗ですが、最後に歌われる『楞厳咒』は天台宗の読経です。

黛敏郎が描いたもう一つの『金閣寺』

『炎上』は1958年に公開された日本映画です。
この映画も三島由紀夫の『金閣寺』が題材で、それを市川崑監督が映画化しています。
主演の市川雷蔵は、この作品で主演男優賞等を受賞し高い評価を得ました。

実はこの映画の音楽は、黛敏郎が担当しています。
オペラ『金閣寺』初演の20年近く前に、黛は金閣寺を音楽で表現していたというわけです。
映画の冒頭では『涅槃交響曲』でも聞かれる、「摩訶般若婆羅蜜(もこほじゃほろみ)」のフレーズが歌われます。

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