項目データ
初演1782年7月16日 ブルク劇場(ウィーン)
原作クリストフ・フリードリヒ・ブレッツナーの戯曲(1781年)
台本ゴットリープ・シュテファニーが無断で原作を自由に改編
演奏時間2時間

『後宮からの逃走(Die Entführung aus dem Serail)』は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart/1756年-1791年)によって作曲されたオペラです。
『後宮からの誘拐』とも呼ばれます。

 「Entführung」は日本語で「誘拐」の意味。

このオペラはオーストリア皇帝ヨーゼフ2世の依頼で作曲されました。
皇帝は「音符が多すぎる」と指摘したそうですが、モーツァルトは自信を持ってそれを否定したそうです。
ザルツブルクからウィーンに移住したばかりのモーツァルトは、このオペラの成功でウィーンでの評判を得ることが出来ました。

またこのオペラはモーツァルトにとって初めての本格的なジングシュピールで、レチタティーヴォはなくセリフで劇は進行します。

 小規模なものは『バスティアンとバスティエンヌ(Bastien und Bastienne)』(1768年)がある。

また、このオペラは約30年後にロッシーニが作曲したオペラ『アルジェのイタリア女』とストーリーが類似していると言われることもあります。
音楽は全く違いますが、どちらも宮殿からの逃走計画をテーマとしたオペラです。

ここではモーツァルトのオペラ『後宮からの逃走』のあらすじを紹介したいと思います。

主な登場人物

登場人物備考
太守セリム(セリフのみ)
ベルモンテ(テノール)スペインの貴族
ベドリッロ(テノール)ベルモンテの召使
コンスタンツェ(ソプラノ)ベルモンテの婚約者
ブロンデ(ソプラノ)コンスタンツェの召使。イギリス人
オスミン(バス)太守の監督官

『後宮からの逃走』の簡単なあらすじ

時間のない方のための簡単な「30秒あらすじ」

コンスタンツェ、ペドリッロ、ブロンデの3人は海賊に囚われます。
そして3人は太守セリムの宮殿に奴隷として売られ、そこで生活をしています。

ベルモンテはコンスタンツェたちを救出するために、宮殿へ向かいます。
救出はあと一歩のところで失敗に終わりますが、太守セリムの寛容さで皆は解放されます。
セリムの偉大さが称えられる中、ハッピーエンドで幕は降ります。

第1幕:『後宮からの逃走』のあらすじ

17世紀のトルコ

ベルモンテが恋人を救いに宮殿へ向かう

ベルモンテは宮殿(恋人コンスタンツェが売られた場所)に着き、どう侵入すべきか考えています。

 コンスタンツェ(高貴なスペイン人)、ブロンデ(召使)、ペドリッロ(ベルモンテの召使)の3人は、海賊に襲われ奴隷市場に売りに出されました。
ペドリッロの手紙で彼らの所在を知ったベルモンテ(コンスタンツェの恋人)は、救出に向かいました。

ベルモンテは、オスミン(宮殿の番人)に宮殿の様子を尋ねますが、怪しまれ追い返されてしまいます。
入れ替わりでペドリッロが現れます。
ペドリッロを嫌っているオスミンは、彼に悪態をついて去っていきます。(Solche hergelaufne Laffen)

そこにベルモンテが戻って来て、ペドリッロと再会を果たします。
ベルモンテはペドリッロから「恋人コンスタンツェは無事だ」と聞いて喜びます。(Konstanze, dich wiederzusehen)

二人はコンスタンツェを誘拐して逃走する計画を立てます。

「Konstanze, dich wiederzusehen」

太守とコンスタンツェが帰ってくる

ペドリッロは「ベルモンテを建築家」として太守セリム(宮殿の主人)に紹介することにします。
太守とコンスタンツェが船遊びから帰ってくるので、二人は身を隠します。

 太守はコンスタンツェのことを気に入っている

太守はコンスタンツェに優しくしますが、彼女の心は暗いままです。
コンスタンツェは「私は別の男性に愛を捧げた」と、恋人と引き離された運命を嘆きます。(Ach, ich liebte, war so glücklich)

太守は「期限は明日だ」と告げ、コンスタンツェを去らせます。

「Ach, ich liebte, war so glücklich」

ベルモンテが建築家として宮殿に雇われる

そこにペドリッロが現れ、ベルモンテを建築家として紹介します。
太守はベルモンテを建築家として雇うことにします。

二人は宮殿に入ろうとしますが、現れたオスミンがそれを阻止しようとします。
二人はオスミンをなんとか押しやって、中に入っていきます。

第2幕:『後宮からの逃走』のあらすじ

オスミンの恋を、ブロンデがあしらう

オスミンはブロンデに言い寄っています。
しかし、彼女はそれを強くはねのけます。

 ブロンデ:コンスタンツェの召使。宮殿で女奴隷として働かされています。

オスミンが「ここはトルコでお前は奴隷だ!おれの命令に従え」と言いますが、ブロンデは「私はイギリスの女で、自由の身で生まれたのよ!」と言うことを聞きません。
オスミンは根負けして立ち去っていきます。

太守の言い寄りを、コンスタンツェが断る

コンスタンツェが現れ、
「喜びは失われ、悲しみが私の運命となってしまった。」
と歌います。(Traurigkeit ward mir zum Lose)

「Traurigkeit ward mir zum Lose」

そこに太守が現れ「明日には私を愛してくれるか?」とコンスタンツェに尋ねます。
コンスタンツェがそれを断るので、太守は「あらゆる拷問を受けることになるぞ」と語ります。

しかしコンスタンツェは「喜んで拷問も苦しみも受けます。」と固い気持ちを語ります。(Martern aller arten)

「Martern aller arten」

太守は「彼女はなぜあのようにふるまうのか。」「逃げる望みでもあるのか…」と独白します。

宮殿からの「逃走計画」を立てる

太守が去ったところに、ブロンデ、続いてペドリッロが現れます。

ペドリッロはブロンデに
「ベルモンテ様が助けに来てくれたよ!」
「今夜ここから脱走するんだ!」
「梯子(はしご)を部屋にかけて、外に出る計画だよ。」
と、逃走計画を説明します

ブロンデは喜び、計画をコンスタンツェへ伝えに去っていきます。

オスミンが酒で酔いつぶれる

ペドリッロが一人になったところに、オスミンが現れます。
ペドリッロはオスミンに酒を勧めます。

マホメット教徒で酒を飲めないオスミンでしたが、誘惑に負けて酒を飲み始めます。
やがてオスミンは酒に飲まれ、そのまま眠ってしまいます。

ペドリッロは眠っているオスミンを、オスミンの家へ運びます。

ベルモンテとコンスタンツェが再会を喜ぶ

ベルモンテの前にコンスタンツェが登場します。
二人は再会を喜び(Wenn der Freude Tränen fliessen)、そこにペドリッロとブロンデも加わります。

それぞれの浮気の疑いが晴れたところで、皆が愛を称え幕が下ります。

第3幕:『後宮からの逃走』のあらすじ

「逃走計画」がスタートする

宮殿の前の広場(深夜)

ベルモンテが、愛の力を高らかに歌い上げます。(Ich baue ganz auf deine Stärke)
そこにペドリッロが偵察から戻ってきて、逃走の合図を告げます。

宮殿の窓からコンスタンツェが顔を出すと、部屋に梯子(はしご)をかけて、ベルモンテがコンスタンツェを外に連れ出します。
ペドリッロは「ベルモンテ様と一緒に浜へ向かってください。」とコンスタンツェに告げます。

次にペドリッロは、ブロンデを連れ出すために、ブロンデの部屋に梯子をかけて、中に入っていきます。

オスミンが目を覚まし、彼らは捕まってしまう

そんな中、眠りから覚めたオスミンが騒ぎに気づき、衛兵を呼びます。
ペドリッロとブロンデは捕まってしまいます。

さらにベルモンテとコンスタンツェも捕えられ、連れ戻されてきます。

オスミンは「勝どきを上げたいね、あいつらが首を閉められるときに!」と勝ち誇り、彼らを太守も元へと連れていきます。

釈放を願い出るが、逆効果になる

太守は
「裏切者!私の寛大さを悪用したのか。」
と、逃げ出したコンスタンツェをひどく怒ります。

ベルモンテは太守に
「身代金を払うから、どうか許してください。」
「私の身分はスペインの名門ロスタドスです。」
と太守に願います。

しかし、これが逆効果となります。
ベルモンテの父が「太守の宿敵」だと判明したのです。

 太守は、ベルモンテの父が原因で祖国を捨てなければならず、さらには愛する人も奪われています。

太守は4人の処分を決めるために一度その場を去ります。

ベルモンテは運命を嘆きます。
コンスタンツェはすでに死の覚悟を決め、愛する人と共に死ねる幸福を歌います。

徳高い太守が、皆の帰国を許す

太守が戻ってきます。

太守は
「お前の父を憎んでいるが、お前たちを自由の身にしてあげよう。」
「"憎しみ"を"憎しみ"で返すより、善行で返すほうが私は満足だ。」
と彼らが帰ることを許します。

そしてベルモンテに
「父よりも人間らしくなってくれ。」
「そうすれば私も報われる。」
と語ります。

皆が喜ぶ中で、オスミンだけが納得いかず怒ります。

帰る船が浜辺に到着し、皆は船に乗り込みます。
全員が太守を称える中で、オペラが終わります。

モーツァルト『後宮からの逃走』の映像

1980年4月、バイエルン国立歌劇場でのライブ映像です。
グルベローヴァ、アライサなど往年の名歌手たちが集まった名盤です。
演出もスタンダードで、モーツァルトのオペラの世界にスムーズに入り込むことができます。

コンスタンツェ:エディタ・グルベローヴァ
ベルモンテ:フランシスコ・アライサ
ブロンデ:レリ・グリスト
ペドリッロ:ノルベルト・オルト
オスミン:マルッティ・タルヴェラ
セリム:トマス・ホルツマン

合唱:バイエルン国立歌劇場合唱団
管弦楽:バイエルン国立歌劇場管弦楽団
指揮:カール・ベーム
演出:アウグスト・エファーディング

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