ローベルト・シューマン(Robert Schumann, 1810年-1856年)の「流浪の民(Zigeunerleben)」は、1840年に作曲されました。
元々は4重唱の作品でしたが、現在では合唱作品として広く愛されています。

原詩はドイツ語ですが、日本では石倉小三郎による訳詞が有名で日本のいたるところで歌われています。

 日本語では[Zigeuner]はジプシー、[leben]は人生、生活という意味です。
「流浪の民」を直訳すると「ジプシーの暮らし」ということです。
歌詞の内容は、ジプシーの暮らしの様子が描かれています。

この1840年は「歌曲の年」と呼ばれ、シューマンにとって特別な年です。
彼が残した傑作『リーダークライス』(作品24および作品39)、『ミルテの花』(作品25)、『女の愛と生涯』(作品42)、『詩人の恋』(作品48)はこの1年で作曲されました。

ここでは「流浪の民(Zigeunerleben)」の歌詞(原詩)と日本語訳を紹介したいと思います。
それぞれの単語の意味も掲載していますので参考にしてください。
石倉小三郎の訳詞と照らし合わせるのも興味深いと思います。
不自然な場合もありますが、歌詞と日本語訳は可能な範囲で行が対応するように訳しています。

専門家の日本語訳ではありませんので、参考程度にご覧ください。

「流浪の民(Zigeunerleben)」の演奏

【原詩(ドイツ語)】

【日本語訳詞】

「流浪の民(Zigeunerleben)」の歌詞1

Im Schatten des Waldes, im Buchengezweig,
da regt's sich und raschelt und flüstert zugleich.
Es flackern die Flammen, es gaukelt der Schein
um bunte Gestalten, um Laub und Gestein.

「流浪の民(Zigeunerleben)」の対訳1

森の陰に、ブナの枝の間に
動き、カサカサと音を立てて、ささやく声がする
炎が揺らめき、光が差す
色とりどりの姿で、木の葉や岩石に

【石倉小三郎訳詞】
ぶなの森の葉隠れに
宴寿(うたげほが)い賑わしや
松明(たいまつ)明(あか)く照らしつつ
木の葉敷きて倨居(うつい)する

ドイツ語の単語の意味

Schatten/影、陰
Wald/森
Buche/(植物)ブナ
Gezweig/枝
regen/動く
rascheln/カサカサと音を立てる
flüstern/ささやく
zugleich/同時に
flackern/(光・炎が)揺らめく
Flamme/炎
gaukeln/ひらひら飛ぶ
Schein/光
bunt/色とりどりの、カラフルな
Gestalt/形・姿
Laub/木の葉
Gestein/岩石

「流浪の民(Zigeunerleben)」の歌詞2

Da ist der Zigeuner bewegliche Schar,
mit blitzendem Aug' und mit wallendem Haar,
gesäugt an des Niles geheiligter Flut,
gebräunt von Hispaniens südlicher Glut.

「流浪の民(Zigeunerleben)」の対訳2

そこには流浪のジプシーの群れがいて
その瞳は輝き、髪は波打つように垂れ下がっている
聖なるナイル川のほとりで生まれ乳を飲み、スペインの南国の光で日焼けしている

【石倉小三郎訳詞】
これぞ流浪の人の群れ
眼(まなこ)光り髪清ら
ニイルの水に浸(ひた)されて
煌(きら)ら煌ら輝けり

ドイツ語の単語の意味

Zigeuner/ジプシー
beweglich/動かせる、活発な
Schar/群れ
blitzen/きらりと光る
Auge/目
wallen/(髪・服が)波打つように垂れ下がる
Haar/髪の毛
säugen/乳を飲ませる
Nil/ナイル(川)
heiligen/清める・神聖なものとしてあがめる
Flut/大量の水・洪水・満潮
bräunen/日焼けする、褐色に日焼けさせる
südlich/南の
Glut/火・灼熱

「流浪の民(Zigeunerleben)」の歌詞3

Ums lodernde Feuer in schwellendem Grün,
da lagern die Männer verwildert und kühn,
da kauern die Weiber und rüsten das Mahl,
und füllen geschäftig den alten Pokal.

「流浪の民(Zigeunerleben)」の対訳3

豊かな草木に炎が燃え上がり
そこに荒々しく勇ましい男たちが横たわる
女たちはしゃがみこんで食事の準備をし、忙しそうに古い盃を満たす

【石倉小三郎訳詞】
燃ゆる火を囲みつつ 燃ゆる赤き炎 焚火
強く猛き男(おのこ)安らう 巡り男休らう
女立(おみな)ちて忙しく 酒を酌(く)みて注(さ)し巡る

ドイツ語の単語の意味

lodern/燃え上がる
Feuer/火
schwellen/膨れる
Grün/緑
lagern/横になる、キャンプする
Man/男
verwildern/荒れる、野生化する
kühn/大胆な、勇気のある

kauern/しゃがみこむ
Weib/女
rüsten/準備をする
Mahl/食事
füllen/満たす
geschäftig/忙しく、熱心に
alt/古い
Pokal/盃

「流浪の民(Zigeunerleben)」の歌詞4

Und Sagen und Lieder ertönen im Rund,
wie Spaniens Gärten so blühend und bunt,
und magische Sprüche für Not und Gefahr
verkündet die Alte der horchenden Schar.

「流浪の民(Zigeunerleben)」の対訳4

周りでは伝説や歌が聞こえてくる
色とりどりの花が咲き誇るスペインの庭のように
そして苦しみや危険のための魔法の格言を
老人が告げて 皆は聞き耳を立てている

【石倉小三郎訳詞】
歌い騒ぐ其の中に
南の邦(くに)恋うるあり
厄難(なやみ)祓う祈言(ねぎごと)を
語り告ぐる嫗(おうな)あり

ドイツ語の単語の意味

Sage/伝説・逸話
Lied/歌
ertönen/響き渡る・聞こえてくる
Rund/周囲
wie/~のように
Garten/庭
blühend/花盛りの、若々しい
bunt/色とりどりの

magisch/魔法の、神秘的な
Spruch/格言
Not/苦しみ
Gefahr/危険
verkünden/告げる、予告する
Alte/老人
horchenden/聞き耳を立てる
Schar/群れ

「流浪の民(Zigeunerleben)」の歌詞5

Schwarzäugige Mädchen beginnen den Tanz.
Da sprühen die Fackeln im rötlichen Glanz.
es lockt die Gitarre, die Zimbel klingt.
Wie wild und wilder der Reigen sich schlingt!

「流浪の民(Zigeunerleben)」の対訳5

黒い目をした娘たちがダンスを踊り始める
そこで たいまつが赤い輝きを放つ
ギターが鳴り、シンバルが響く
その踊りはどれほど荒々しくなっていくのだろう!

【石倉小三郎訳詞】
愛(めぐ)し乙女舞い出(いで)つ
松明明く照りわたる
管弦の響き賑わしく
連れ立ちて舞い遊ぶ

ドイツ語の単語の意味

schwarzäugig/黒い目をした
Mädchen/女の子、娘
beginnen/始める
Tanz/ダンス
sprühen/(火花が)飛び散る
Fackel/たいまつ
rötlich/赤みがかかった
Glanz/輝き

locken/誘う
Gitarre/ギター
klingen/鳴る、響く
wie/なんと
wild/野生の、荒々しい、激しい
Reigen/輪舞
schlingen/巻き付ける

「流浪の民(Zigeunerleben)」の歌詞6

Dann ruh'n sie ermüdet vom nächtlichen reih'n.
Es rauschen die Buchen in Schlummer sie ein.
Und die aus der glücklichen Heimat verbannt,
sie schauen im Traume das glückliche Land.

「流浪の民(Zigeunerleben)」の対訳6

夜の踊りに疲れて、彼らは休みだし
彼らがうたた寝をする中で、ブナがざわざわと音を立てる
そして 幸せな故郷を追放された彼らは
夢の中で その幸せな国を見る

【石倉小三郎訳詞】
すでに歌い疲れてや
眠りを誘う夜の風
慣れし故郷を放たれて
夢に楽土求めたり

ドイツ語の単語の意味

dann/それから
ruhen/休息する
ermüden/疲れる
nächtlich/夜の
rauschen/ざわざわと音を立てる、ざわめく
Buche/ブナ
Schlummer/うたた寝、まどろみ

glücklich/幸せな
Heimat/故郷
verbannen/追放する
schauen/目を向ける
Traum/夢
Land/国、土地

「流浪の民(Zigeunerleben)」の歌詞7

Doch wie nun im Osten der Morgen erwacht,
verlöschen die schönen Gebilde der Nacht,
es scharret das Maultier bei Tagesbeginn,
fort zieh'n die Gestalten, wer sagt dir wohin?

「流浪の民(Zigeunerleben)」の対訳7

しかし今 東に朝が目覚めるとき
美しい夜の様は消えていく
夜明けにラバがひづめをとぎ
人影は次へと移動していく
どこへ行くかと君たちに告げる人(誰か)はいるのだろうか

【石倉小三郎訳詞】
東空(ひんがし)の白みては
夜の姿かき失せぬ
ねぐら離れて鳥鳴けば
何処(いずこ)行くか流浪の民

ドイツ語の単語の意味

doch/しかし
wie
nun/今、今や
Osten/東
Morgen/朝
erwachen/目を覚ます
verlöschen/消える
schön/美しい
Gebilde/形成物、現象
Nacht /夜

scharren/(ひづめなどで)がりがりとひっかく
Maultier/ラバ
Tag/1日
Beginn/最初
fort/去って、さらに先へ
ziehen/引く、移動する
Gestalt/形、人影
sagen/言う
wohin/どこへ