チャイコフスキーの序曲「1812年」は、1880年に作曲された作品で本物の大砲が使われる曲としても有名です。
序曲の他に大序曲、荘厳序曲、祝典序曲と呼ばれることもあります。
作曲の時期としてはバレエ「白鳥の湖」(1875年~1876年)、オペラ「エフゲニー・オネーギン」(1878年)が作曲された少し後の作品です。
また原曲には入っておりませんが、合唱を加えて演奏されることもあります。
ここではチャイコフスキーの序曲「1812年」の解説と名盤を紹介したいと思います。
作曲に乗り気ではなかった作品
序曲「1812年」はモスクワの聖ハリストス大聖堂の完成記念式典の題材として作曲されました。
この大聖堂はナポレオンの侵攻を退けたことを記念して着工され、ようやく完成されたものでした。
イベント用の曲で芸術とは程遠いため、チャイコフスキーは作曲に乗り気ではありませんでした。
しかし、それはチャイコフスキーの親友であるニコライ・ルビンシテインからの依頼でした。
親友の頼みを断るわけにもいかず、チャイコフスキーは仕方なしに作曲をはじめます。
ちなみにチャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第2番」(1879~1880年)はニコライに献呈された作品で、「ピアノ三重奏曲」(1881年~1882年)はニコライへの追悼音楽です。
親友ニコライはこの頃(1881年3月24日)にパリで急死してしまいます。
初演から5年後に大ヒット
チャイコフスキー自身が手ごたえを感じていなかったように、初演は失敗に終わりました。
しかし1887年にサンクトペテルブルクでの演奏会で「1812年」は大成功を収めます。
その時の指揮はチャイコフスキー自身がおこなっており、彼はその大成功の手ごたえを日記にも記しています。
ナポレオンがロシア遠征をした「1812年」
作品のタイトルとなっている「1812年」は、フランス帝国のナポレオンがロシア遠征をおこなった年です。
その象徴としてフランスの国歌「ラ・マルセイエーズ」の主題も登場します。
ナポレオン軍はロシア遠征を行いましたが、帝政ロシア軍に押され敗走します。
この戦争はロシアでは「祖国戦争」と呼ばれ、ロシアにとってはフランスに勝利した歴史的な出来事なのです。
その他にもロシア聖歌「神よあなたの民を護り給え」やロシア民謡「門の前で」も曲中に登場します。
合唱が用いられる場合はこのロシア聖歌が合唱によって冒頭で厳かに歌われます。
本物の大砲
また「1812年」は戦いを描いた作品らしく、曲中には本物の大砲(cannon)が登場します。
楽譜上に大砲(cannon)の使用が指定されているのですが、初演で大砲が使われたどうかはまだわかっておりません。
チャイコフスキーが生きている間に大砲の使用は実現しなかったという説もあります。
しかし頻度こそ多くありませんが、今日までに何度も実際に大砲を使った演奏もなされています。
もちろん砲弾はつめこんでおらず、大砲を放つときは「空砲」です。
動画で見ると楽器の音よりどれだけ大砲の音が大きいかがわかりますね。
音量のバランスを考えると、大砲は演奏会に不向きのようです。
大砲の入った録音もいくつか存在しますが、それらはオーケストラと大砲を別々に録音し、それらをミックスしています。
歌詞と対訳
合唱が加わる場合は、ロシア語の歌詞で歌われます。
形態は様々で混声合唱の場合もあれば、男声合唱、児童合唱で演奏されることもあります。
男声合唱で歌われる場合はソプラノパートは実音で歌われるため、男性にとってはかなりの高音となります。
参考程度にわかる範囲で歌詞(アルファベット表記)と対訳を記載します。
歌詞と単語の意味(前半部)
Spasi Gospodi liudi Tvoia
(助けて/主よ/人々/あなたの)
i blagoslovi dostoianie Tvaie
(そして/祝ってくれ/恵み/あなたの)
Pobedy boriushchimsia za veru pravuiu
(勝利/戦士たち/ために/信仰/正しい)
i za sviatuiu rus
(そして/ために/聖なる/ロシア)
na soprotivnyia daruia
(そして/抵抗/与える)
I Tvoie sokhraniaia
(そして/あなたの/守り)
Krestom Tvoim zhitelstvo
(十字架/あなたの)
対訳
主よ、あなたの民を救ってください
そしてあなたの恵みを祝福してください
戦士たちに勝利を 正しい信仰のために
そして聖なるロシアのために
歌詞と単語の意味(後半部)
Bozhe tsaria khrani
(神/皇帝/守る)
silny derzhavny
(強い/国家)
tsarstvui na slavu
(治める/ために/栄光)
対訳
神よ、皇帝をお守りください
強い国家を
栄光のために治めてください
チャイコフスキーの序曲「1812年」の名盤
チャイコフスキーの序曲「1812年」と言えば、名盤でもあり衝撃作品でもあるこのCDです。
実際の大砲も使用しており、クラシックの録音ですが音源をいじくって劇的な効果を演出しています。
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