邦題イーゴリ公
初演1890年11月4日 マリンスキー劇場(サンクトペテルブルク)
原作12世紀のロシアの叙情詩『イーゴリ公遠征記』
台本アレクサンドル・ボロディン
演奏時間3時間30分弱

アレクサンドル・ボロディン(Alexander Borodin/1833年-1887年)のオペラ『イーゴリ公』は、彼が残した未完のオペラです。

彼の死後にリムスキー=コルサコフとグラズノフの手によって完成したオペラで、イーゴリ公がポロヴェツ人に遠征する歴史的事実が基になっています。

 ボロディンは「ロシア5人組の一人」として知られていますが、化学者としても才能を発揮しました。

劇中に演奏される「ポロヴェツ人(だったん人)の踊り」が特に有名で、コンサートで単独で演奏されることもしばしばです。

ここではボロディンのオペラ『イーゴリ公』のあらすじを紹介したいと思います。

主な登場人物

登場人物詳細
イーゴリ公(バリトン)
ヤロスラヴナ(ソプラノ)イーゴリ公の2番目の妻
ウラジーミル(テノール)ウラジーミル・イーゴレヴィチ。イーゴリ公の最初の妻との息子。
ガーリツキイ公(バス)ウラジーミル・ヤロスラヴィチ。ヤロスラヴナ(イーゴリの妻)の兄
コンチャック(バス)ポロヴェツの汗(君主)の1人
コンチャコヴナ(アルト)コンチャックの娘

『イーゴリ公』の簡単なあらすじ

時間のない方のための簡単な「30秒あらすじ」

イーゴリ公はポロヴェツ軍との戦いに敗北し、囚われの身となります。
しかし逃亡に成功し、ロシアに帰還します。

民衆がイーゴリ公を称え、オペラが終わります。

 ちなみにイーゴリ公の息子は、囚われの身の状態で敵の君主の娘に恋をします。
そして、敵地に残り彼女と結ばれます。

プロローグ:『イーゴリ公』のあらすじ

イーゴリ公が息子ウラジーミルを連れて戦場に向かう

プティーヴル(ロシアの都)の教会の広場
イーゴリ公は「ポロヴェツ人の侵攻を防ぐ」ために戦場へ向かおうとしています。
そのとき不吉にも日食が起こるので、ヤロスラヴナ(イーゴリ公の妻)たちはそれに反対します。

 ポロヴェツとは、ウクライナからカザフスタンに広がる草原地帯に存在した遊牧民族のことです。

しかし決意を強く持ったイーゴリ公は「ロシアの地をガーリツキイ公(イーゴリの妻の兄)に託し」、息子ウラジーミルを連れて戦地に赴きます。

 物語をわかりやすく進めるために、「ガーリツキイ公(イーゴリの妻の兄)」「ウラジーミル(イーゴリの息子)」と表現していますが、二人の名は以下の通りです。
ガーリツキイ公・・・ウラジーミル・ヤロスラヴィチ
ウラジーミル・・・ウラジーミル・イーゴレヴィチ

第1幕:『イーゴリ公』のあらすじ

ガーリツキイ公が「イーゴリの地位」を奪おうとしている

ガーリツキイ公の庭
ガーリツキイ公は土地を任されたことをいいことに、贅沢三昧の暮らしを送っています。
そして「このままイーゴリ公から支配権を奪おう」と考えています。

そこに軍から脱走してきたスクーラとエローシュカ(二人ともグドーク弾き)も加わり、荒れた生活に慣れた民衆は「イーゴリを降ろし、ウラジーミル(ガーリツキイ公のこと)を公にしよう!」と叫びます。

ガーリツキイ公の横暴を抑えることができない

ヤロスラヴナの部屋
ヤロスラヴナ(イーゴリの妻)が「悪い予感がするわ。一人で夜も眠れない…」と夫と息子を心配しています。
そこに娘たちが「イーゴリ公の不在で、あいつらはやりたい放題です!」とガーリツキイ公の横暴を訴えに来ます。

ヤロスラヴナは現れたガーリツキイ公に「娘を力ずくで奪って、館に閉じ込めてるのは本当なの?」と問いただします。
するとガーリツキイ公は「お前には関係ない。ここではおれが公だ。」と悪態をつき去っていきます。

イーゴリ軍は敗北し、イーゴリと息子が捕えられた

そんな中、「イーゴリ公の軍が敗北し、公と息子が捕えられた」という悪い知らせが飛び込んできます。
ポロヴェツ軍は既に近くまで進行し、ガーリツキイ公はこれを機に支配権を奪おうと企みます。

第2幕:『イーゴリ公』のあらすじ

ウラジーミルとコンチャコヴナが「愛と結婚」を誓う

ポロヴェツ軍の陣営

コンチャコヴナ(コンチャク汗の娘)は、捕えられているウラジーミル(イーゴリの息子)に恋をしています。
一方ロシア人捕虜たちは、「囚われの身なのに、あなたたちから侮辱を受けたことがない。」と、ポロヴェツ人に感謝します。

 汗(ハン)とは君主を表す称号です。
 歴史上の事実としても、ポロヴェツ人はイーゴリに敬意を示し、彼らを暖かくもてなしたそうです。

やがてウラジーミルが現れると、相思相愛のウラジーミルとコンチャコヴナは「愛と結婚」を誓いあいます。

イーゴリ公は「逃亡の勧め」に応じない

一方、イーゴリ公は「敗北の苦しみと愛する妻への愛」を歌っています。

 囚われの身になったイーゴリ公が「私は祖国の恥となった…。私に自由を!私は栄光と名誉を取り戻す。」と歌い上げます。

そこにオヴルール(ポロヴェツ人だがキリスト教の洗礼を受けた)が現れ、イーゴリ公に逃亡を勧めます。
しかしイーゴリ公は「助言には感謝するが、すぐには決められない。」と返します。

コンチャック汗がイーゴリ公を厚くもてなす

夜が明けると、コンチャック汗が登場します。
コンチャック汗はイーゴリ公を「捕虜としてではなく、客人として」扱います。
そしてイーゴリ公に「ポロヴェツ人の踊り」を披露して、おもてなしをします。

「ポロヴェツ人の踊り(だったん人の踊り)」

第3幕:『イーゴリ公』のあらすじ

イーゴリ公が「逃亡し、祖国を救う」ことを決意する

第2幕と同じポロヴェツ軍の陣営
ポロヴェツ軍が、ロシア軍に勝利し帰還してきます。

連れてこられたロシア人捕虜たちは「仲間が殺戮され、娘たちは辱められた。」とロシアの惨状を語ります。
イーゴリ公は「逃亡し、祖国を救う」ことを決意します。

イーゴリ公が息子を残して逃亡する

ポロヴェツ人が寝静まると、オヴルールが逃亡の手はずを整え始めます。
そのとき、コンチャコヴナが恋人ウラジーミルの前に現れ、「ここに残って!そうでなければ連れてって!」と熱い想いを語ります。

そこにイーゴリ公は息子ウラジーミルに「恋人と別れる」ように命じますが、ウラジーミルは決断できません。
イーゴリ公は仕方なく、息子を残して逃亡します。

コンチャック汗が「娘とウラジーミルの結婚」を許す

コンチャコヴナがポロヴェツ人たちを起こし、「イーゴリ公の逃亡」を告げます。
するとポロヴェツ人たちは「ウラジーミルを射殺せよ!」と騒ぎ出し、コンチャコヴナは慌てて彼をかばいます。

そこに騒ぎを駆けつけたコンチャック汗が現れます。
コンチャック汗は「私がイーゴリ公でも逃亡しただろう。ウラジーミル、お前は私の婿だ。」と寛大な心を示し、「娘コンチャコヴナとウラジーミルの結婚」を認めます。

そして「出陣して、敵を撃つぞ!」とロシア進撃を宣言し、皆を鼓舞します。

第4幕:『イーゴリ公』のあらすじ

イーゴリ公がロシアに帰ってくる

プティーヴル(ロシアの都)の城壁と広場
戦いに敗れ、辺りは廃墟と化しています。
ヤロスラヴナ(イーゴリの妻)が、遠くにいる哀れな夫を想い嘆いています。

そこに思いもよらず、イーゴリ公が帰ってきます。
ヤロスラヴナは興奮し、二人は感動の再会を果たします。

皆がイーゴリ公を称える

イーゴリ公は「国中に呼びかけ、再び汗を攻撃する」と決意し、二人は「敵を打ち砕くぞ!」と叫びます。

スクーラとエローシュカ(軍から脱走し、ガーリツキイ公に寝返った)が「軍は壊滅し、イーゴリ公は力を失った。」と酔っぱらいながら歌って登場します。
二人は「イーゴリ公の帰還」に驚き混乱します。

二人は生き延びるために機転を利かせて「朗報だ!裏切者のガーリツキイ公じゃないぜ。イーゴリ公が帰って来たぞ!」と鐘を鳴らし、皆を呼び寄せます。

そして民衆が「イーゴリ公の栄光」を称え、オペラが終わります。

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