ピョートル・チャイコフスキー(Pyotr Tchaikovsky/1840年~1893年)の幻想序曲「ロメオとジュリエット」は、1869年に作曲され翌年1870年に初演された作品です。
チャイコフスキーは1866年に初めて交響曲を書きました。
そして1868年には、サンクトペテルブルクでロシア5人組(ミリイ・バラキレフ、ツェーザリ・キュイ、モデスト・ムソルグスキー、アレクサンドル・ボロディン、ニコライ・リムスキー=コルサコフ)と交流を持つようになりました。
そしてその少し後に書かれたのが「ロメオとジュリエット」です。

音楽院を卒業してから4年後の彼が29歳の頃の作品で、彼の初期の傑作としても知られています。
彼の初期の作品の中では、コンサートでもよく聴かれる数少ない作品の一つでもあります。

ここではチャイコフスキーの「ロメオとジュリエット」の解説と名盤を紹介したいと思います。

シェイクスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」が題材

タイトルからもすぐわかる通り、この作品はシェイクスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」が題材となっています。
「ロミオとジュリエット」は1595年前後とされており、その悲劇的な恋愛ストーリーの性格上か、チャイコフスキーだけでなく多くの音楽家たちがこれをテーマとして作曲しています。

代表的な例を挙げるだけでも、

 ・ヴィンチェンツォ・ベッリーニ作曲「カプレーティ家とモンテッキ家」(1830年初演)/オペラ
・エクトル・ベルリオーズ作曲 劇的交響曲「ロメオとジュリエット」(1839年初演)
・シャルル・グノー作曲「ロメオとジュリエット」(1867年初演)/オペラ
・セルゲイ・プロコフィエフ作曲「ロメオとジュリエット」(1938年初演)/バレエ

と歴史に名を残す音楽家たちがズラリと見られます。

Tchaikovsky

チャイコフスキーは文学作品を愛したことでも知られています。
多くの音楽家がそうなったように、「ロミオとジュリエット」がチャイコフスキーの音楽に刺激を与えてくれたのは当然なのかもしれません。

実はチャイコフスキーが「ロミオとジュリエット」をテーマにオペラを書こうとしたという記録も残っているそうです。
チャイコフスキーの書くロシア的で壮大な「ロミオとジュリエット」のオペラも観てみたかったですね。

「ロシア5人組」との交流から生まれた作品

前述したとおり、彼は「ロミオとジュリエット」を書く少し前(1868年)に「ロシア5人組」と出会っています。
チャイコフスキーはその「ロシア5人組」のまとめ役として知られているミリイ・バラキレフに自身の曲を批評するなどしてもらっていました。
そのバラキレフから作曲を勧められた題材が「ロミオとジュリエット」だったのです。

この「ロミオとジュリエット」の作曲もバラキレフの助言も加わって進んでいきました。
バラキレフの力がなければ、もしかするとこの名作は生まれていなかったのかもしれません。
チャイコフスキーはこの他にも「マンフレッド交響曲」などいくつか作品にバラキレフの助言を取り入れています。

ちなみにこの作品には幻想序曲と付いていますが、この言葉が加わったのは初演後に改訂された後に加えられました。

曲の構成

全体を通して20分程度のこの作品は、もちろん「ロメオとジュリエット」のストーリーを音楽で表現しています。

1.修道僧ロレンス

モンタギュー家の一人息子ロメオとキャピュレット家の一人娘ジュリエットは、フランシスコ会の修道僧ロレンスの元で秘かに結婚します。
冒頭のクラリネットとファゴットによる重々しい序奏は、修道僧ロレンスを表現しており、それと共にかつてヴェローナで起こった2人の恋人の悲劇を思い起こさせます。

2.両家の争い

続いて流れるのはモンタギュー家とキャピュレット家の対立の音楽です。(第1主題)
弦楽器と管楽器によるダイナミックな演奏が両家による剣の交わりによる戦闘が表現されています。

3.「ロメオとジュリエット」の愛

変ニ長調に変化したところで、ヴィオラがロメオとジュリエットの愛のテーマを演奏し、後にそれがフルートとオーボエに渡されます。(第2主題)
第1主題(戦闘)が登場し、さらに第1主題と第2主題(愛)が再現された後に、トランペットによる二人の死への暗示の音楽が演奏されます。

4.クライマックス、二人の死

盛り上がりの中、瀕死の状態のジュリエットを見たロメオは、彼女が死んだと思い違いをしてしまいます。
ロメオは毒薬で命を絶ち、激しい音楽からの鋭い1音がそれを表現しています。
さらなるティンパニによる鋭い1音は、それをみたジュリエットが後を追って命を絶ったことを表現しています。

木管楽器が天に昇るような音楽を奏で、最後の盛り上がりを迎え作品は終わります。
ラストのハープの清らかな音色も印象的です。

チャイコフスキー「ロメオとジュリエット」の名盤

こちらは1966年に録音された、カラヤン指揮、ベルリンフィル演奏によるチャイコフスキーの「ロメオとジュリエット」です。
「ロメオとジュリエット」ももちろん美しい音楽ですが、こちらのCDはメインはチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」です。
「悲愴」は1976年に録音されたもので、カラヤンがいくつも録音した「悲愴」の中でも特に名演と言われています。

ヘルベルト・フォン・カラヤン(Herbert von Karajan/1908年4月5日-1989年7月16日)
オーストリアの指揮者

1955年から1989年までベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の終身指揮者・芸術監督を務める。
ウィーン国立歌劇場の総監督やザルツブルク音楽祭の芸術監督も務めるなど、歴史上最も偉大な指揮者の一人である。
日本には11度も来日しており、日本人には小澤征爾が師事したことでも知られている。

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(Berliner Philharmoniker)
世界を代表するオーケストラの一つで、日本において絶大な人気を誇る。
重厚なドイツ的サウンドを奏でながらも、バラエティに富んだプログラムを演奏し常に世界の最先端をリードしている。

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