ジャン・シベリウス(Jean Sibelius/1865年~1957年)のヴァイオリン協奏曲は、1903年に作曲されました。
時期としては交響曲第2番と第3番の間の作品になります。
現在演奏されている現行版は1905年に改訂されたものです。

作曲家それぞれに音楽の個性があるように、音楽の特性は国によっても表れます。
シベリウスは母国のフィンランド語を歌詞とする曲を多く書きました。

ここでは、シベリウスの「ヴァイオリン協奏曲」の解説と名盤を紹介したいと思います。

フィンランドの作曲家シベリウス

フィンランド語の特徴と言えば、第1音節にアクセントがあることです。
そしてそのフィンランドの特徴を活かした音楽がシベリウスの音楽の特徴でもあり、このヴァイオリン協奏曲も北欧の匂いをたっぷりと感じることが出来る作品です。

最後から2番目の母音が長母音となり、そこにアクセントを持つことが多いイタリア語は、イタリアらしい音楽を作りだします。
イタリア語に比べ子音が強く、音色も深く、言葉一つ一つがはっきりと聴こえるドイツ語は、ドイツらしい音楽を作りだします。
それと同じようにシベリウスの音楽はフィンランドらしい音楽なのです。

もちろんヴァイオリン協奏曲には歌詞はありませんが、北欧の国フィンランドの匂いがたっぷりと感じられます。
印象的な第1楽章の冒頭部分についてシベリウスは「極寒の澄み切った北の空を、悠然と滑空する鷲のように」と語っています。

ヴァイオリニストを目指したシベリウス

若き日のシベリウスはヴァイオリニストを目指しており、ヘルシンキの音楽学校でヴァイオリンを学んでいます。
残念ながらその夢は断念してしまいますが、その原因はあがり症だったと言われています。
しかし腕前は確かであり、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を弾きこなすほどの腕があったそうで、ウィーンフィルのオーディションを受けたこともあります。
彼の初めて作曲した作品はヴァイオリンとチェロのための「水滴」でした。

そのようなヴァイオリニスト志望であったシベリウスが残した唯一のヴァイオリン協奏曲がこの曲です。

Sibelius

借金に苦しんだシベリウス

シベリウスは借金に苦しんだ生活を送っていたことでも知られています。
それはシベリウス自身が嗜好品や高級酒を好んだためと言われています。
また都会であるヘルシンキに住んでいたことも浪費に拍車をかけたのでしょう。

シベリウスは経済的苦境から脱するために1903年にヘルシンキからヤルヴェンパーに住居を移します。
この「ヴァイオリン協奏曲」は、この引っ越しの時期に作曲された作品です。

初演後は不評に終わる

初演は1904年シベリウス自身の指揮によってヘルシンキで演奏されましたが、結果はいまいちでした。
ちなみにこの作品はヘルシンキ管弦楽団のコンマスであるウィリー・ブルメスターをソリストとすることを念頭に作曲されましたが、都合が合わず初演では別の人物(ヘルシンキ音楽院教授の若手ヴァイオリニスト、ヴィクトール・ノヴァチェク)がソリストを務めました。

初演が失敗した理由としてはソリストの力量不足もありましたが、その失敗を招いたのはシベリウス自身でもありました。
シベリウスは引越し先の新居の建築費のために、名ソリストのスケジュールを待たずして初演を急いで開催してしまったのです。

改訂後に大成功

初演が不評に終わった中、シベリウスは「三大ヴァイオリン協奏曲」の一つである「ブラームスのヴァイオリン協奏曲(1878年作曲)」を耳にします。
そしてシベリウスはこの作品の交響曲的な雰囲気に衝撃を受け、自身のヴァイオリン協奏曲を書き直すこととなります。
この書き直しをおこなった場所が、引っ越し先のヤルヴェンパーです。
都会の喧騒から離れたせいか、改訂後は作風にも変化が見られます。

改訂稿は1905年にリヒャルト・シュトラウスの指揮によりベルリンにて演奏され大成功を収めました。
それ以降はシベリウスは初稿の演奏を禁止し改訂稿が演奏されることとなりました。
面白いことにこの改訂稿の初演でもウィリー・ブルメスターとスケジュールが合わず、ベルリン国立管弦楽団のコンサートマスター、カレル・ハリールがソリストを務めました。

ブルメスターはこのヴァイオリン協奏曲の改訂にも関わっていたため、ソリストに招聘しなかったことに腹を立てました。
そしてブルメスターはこのヴァイオリン協奏曲を演奏することはなかったそうです。

シンフォニックなこの協奏曲ですが、ヴァイオリニストにとっても難曲である作品です。

※ブラームスのヴァイオリン協奏曲はシベリウスのそれの25年前に既に作曲されている作品です。

曲の構成

「急-緩-急」の3楽章で構成されています。

第1楽章 Allegro moderato

自由なソナタ形式で、独奏ヴァイオリンの冒頭主題に登場する動機からすべての主題はできています。
カデンツァを間に挟んだのちに3つの主題が再現されます。
ソナタ形式ではありますがとても独創的な音楽で、この第1楽章は数あるヴァイオリン協奏曲の中でも特に人気の高い部分です。

第2楽章 Adagio di molto

変ロ長調、3部形式です。
木管楽器で音楽がスタートし歌うように演奏され、独奏がこれに続きます。
中間部で劇的な盛り上がりをみせた後に、第2楽章は静かに終わります。

第3楽章 Allegro ma non troppo

ニ長調、自由なソナタ形式です。
繰り返し演奏されるリズム動機による二つの主題が特徴的です。
ラストは盛り上がりの中で音楽が完結します。

シベリウス「ヴァイオリン協奏曲」の名盤

海外の名ソリストたちの歴史的録音ももちろん素晴らしいですが、日本を代表するヴァイオリニスト・諏訪内晶子さんの演奏も1度聴いてみてはいかがでしょうか。
サカリ・オラモ指揮のバーミンガム市交響楽団演奏で2002年に録音されたものです。

その他の録音

シベリウス「ヴァイオリン協奏曲」のその他の録音も紹介したいと思います。

ヒラリー・ハーン

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1979年生まれのアメリカ人ヴァイオリン、ヒラリー・ハーンによるシベリウスの「ヴァイオリン協奏曲」です。
2007年にエサ=ペッカ・サロネン指揮、スウェーデン放送交響楽団の演奏されたもので、同アルバムにシェーンベルクのヴァイオリン協奏曲も収録されています。

2003年にグラミー賞を受賞している他、クラシックのジャンルを超えても活躍を見せています。
日本でもコンサートを開いており、2016年での来日公演が記憶に新しいところです。

チョン・キョンファ

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チョン・キョンファのシベリウスの「ヴァイオリン協奏曲」は、多くのファンに愛聴盤として長年支持されています。
1970年録音のチョン・キョンファのデビューアルバムであり、その名を知らしめた1枚でもあります。

近年のSACD版では、より高音質な音楽で楽しめることでも評判です。

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