平和の日Friedenstag
初演1938年7月24日(バイエルン国立歌劇場)
原案シュテファン・ツヴァイク
台本ヨーゼフ・グレゴール
演奏時間75分

『平和の日』(Friedenstag)は、リヒャルト・シュトラウス(Richard Georg Strauss/1864年-1949年)が作曲したオペラです。
原案はシュテファン・ツヴァイクによるもので、ヨーゼフ・グレゴールが台本を書きました。
演奏時間は75分と短く、コンパクトなオペラでもあります。

 ツヴァイクは、シュトラウスの『無口な女』(1836初演)の台本も書いています。

当時のドイツは、ナチスが権力を握っていました。
また、その時シュトラウスが台本作家としてコンビを組んでいたツヴァイクは、オーストラリア系ユダヤ人でした。

そのためツヴァイクは、ナチスによって軟禁されてしまいます。
そこで、ツヴァイクのアイデアをもとに、グレゴールが台本を仕上げました。

 グレゴールは、その後『ダフネ』と『ダナエの愛』の台本も担当しました。

ここでは、そんなリヒャルト・シュトラウス『平和の日』のあらすじを紹介したいと思います。

主な登場人物

【包囲された都市の登場人物】
司令官(Br)
マリア(司令官の妻)(Sp)

守備隊曹長(Ba)/射手(Tn)/砲兵(Br)
マスケット銃手(Ba)/ラッパ手(Ba)/士官(Br)
前線士官(Br)/ピエモンテ人(Tn)/市長(Tn)
司教(Br)/市民の女性

【包囲した側の登場人物】
ホルシュタイン人(敵の司令官)

など

 物語は「包囲された都市」が舞台です。
登場人物はたくさんいますが、「包囲された都市の司令官」と「その部下たち」という関係でみていけばわかりやすいです。

『平和の日』簡単なあらすじ

時間のない方のための簡単な「30秒あらすじ」
30年戦争最後の日
カトリックの町は、敵軍に包囲されています。
市民たちは飢えに苦しみ、略奪や殺人が起こっています。

敗色濃厚の中、市長たちは「降伏」するように司令官に嘆願します。
しかし、司令官は玉砕覚悟で戦うことを望みます。

そんなとき、「終戦の条約」が結ばれた知らせが入ります。
市民は平和を歌い、司令官たちも喜ぶ中でオペラが終わります。

『平和の日』あらすじ

1648年10月24日の夜明け(ドイツ30年戦争の最後の日)

 三十年戦争は、神聖ローマ帝国(主に現ドイツ)で起こった宗教的政治的戦争です。
カトリックとプロテスタントが対立したものでしたが、戦争後期には宗教的というよりは覇権争いへと変化していきます。
争いはヨーロッパ中を巻き込み、結果的に神聖ローマ帝国は領土を減らしました。

ドイツ人口の約5分の1を含む800万人以上の死者がでたと言われています。

カトリックの町は荒れ果てている

カトリックの町:周囲はプロテスタントの軍が包囲している

守備隊曹長と射手が会話をしています。

射手は「農家が燃えています。」「休みもないし、食べ物もありません。」と不安を口にします。
曹長は「司令官を倣って、自分の務めを果たしなさい。」と告げます。

そこにピエモンテ人が敵の包囲網をすり抜け、歌いながら登場します。(La rosa, la rosa che un bel fiore)

 ピエモンテ・・・イタリアの北西部に位置する
 ピエモンテ人は、「皇帝から預かった手紙」を司令官に渡すためにやってきました。

皆は「ピエモンテ人の陽気な歌」に苛立ちますが、やがて彼のことを気にしなくなります。

人々は飢餓に苦しみ、司令官に降伏を求める

要塞に、大勢の人々が「腹が減った!!」と押し寄せてきます。
人々は「パンをくれ!」「要塞を開けてくれ!」と司令官に求めます。

続いて市長や司祭も「この都市を引き渡してください。」と降伏を願います。

しかし司令官は全く聞く耳を持ちません。

軍の武器も尽きようとしている

戦いの前線から、士官が帰ってきます。

士官は
「弾薬がもうありません。援軍ももうきません。」
「残っている最後の弾薬を使わせてください!」
と訴えます。

しかし司令官は「弾薬はまだ残しておけ。」と命じます。
士官は絶望します。

市民の怒りに、司令官も動揺する

司令官は「皇帝からの手紙」を皆にみせ、
「これを見ろ。都市を守れと命じてあるのだ!」
と叫びます。

それを聞いた女性が、
「皇帝は間違っている!30年間、略奪と殺人ばかりだ!息子も死んだんだ!」
と返します。
そして群衆もそれに続き、怒りを爆発させます。

皆の怒りに動揺した司令官は「明日の正午までに答えを出すから、それまで待て。」と告げ、皆を帰します。

敗色濃厚も、兵士たちは司令官に忠誠を尽くす

市民が去ると、司令官は
「残りの弾薬を積み上げて、導火線に火をつけろ。」
と兵士に命じます。

 暗に「自分たちの要塞を、自らで爆破する用意をする」ことを意味しています。

さらに司令官は「マクデブルクの戦いで、曹長が自分を助けてくれたこと」を思い出し、その借りを返す時が来たと歌います。(Zu Magdeburg in der Reitschlacht..)

司令官は「弾薬を運んだら皆は逃げてもかまわない。」と告げます。
しかし曹長をはじめとする兵士たちは、それを拒絶します。

 兵士たちは司令官に忠誠を誓い、最後まで戦うことを心に決めます。

司令官は心を打たれ、皆に持ち場に着くように命じます。

マリアが「夫(司令官)」への愛を歌う

誰もいなくなり、マリア(司令官の妻)が登場します。
事情を知らないマリアですが、「誰もいなくなり、武器も散らばっている状況」に何かが起こっていることを察知します。

 マリアは、このオペラで唯一「名前のある人物」です。

そして
「結婚式で一度笑ってから、あなたは笑っていないのね。」
「私は戦争と結婚したんだわ。」
と司令官(マリアの夫)に対する思いを歌います。

マリアと司令官が「運命を共にする」ことを誓う

そこに司令官が登場します。
司令官は「降伏するくらいなら、自らで要塞を爆破する」ことを、妻マリアに告げます。

マリアは「戦争は恐ろしい死神のよう。」「私はあなたとと死ぬまで一緒です。」と"戦争への恨み"と"司令官への愛"を歌います。
一方、司令官は「戦争、素晴らしき思想よ。」「私はお前と死ぬまで一緒だ。」と"忠誠"と"マリアへの愛"を歌います。
運命を共にすることを決めた二人は、抱き合います。

「大砲」と「街の鐘」が鳴り響く

そこに「大砲の音」が聞こえます。
皆は「敵の攻撃」かと身を構えますが、何も起きません。

さらに「街の鐘」が一斉に鳴り響きだします。

司令官は「戦闘の作戦」を考えることで頭がいっぱいです。
しかし、そこに「敵が白旗をあげてやってくる」という知らせが入ります。

司令官は罠だと警戒し「要塞の扉を閉める」よう命じます。

市長たちが「街が歓喜にあふれている」ことを報告する

そこに市長と司祭が大喜びでやってきます。
彼らは
「あなたが幸福の鐘を鳴らしてくれたんですね!」
「司令官殿に、永遠の感謝を!」
と告げますが、司令官には心当たりがありません。

続いて市長は
「敵はいなくなり、街は歓喜であふれています。」
と報告します。

敵の司令官も「戦争の終わり」を告げに来る

さらにはホルシュタイン人(敵の司令官)が要塞の外に現れます。

彼は「30年戦争は終わった」と告げ、
それに続いて市民が「平和だ!平和だ!」と叫びます。

皆が平和を歌い、ハッピーエンド

マリアが喜ぶ一方で、司令官はまだ敵を疑っています。
司令官はホルシュタイン人に「邪教はおれの手で葬るぞ!」と剣を向けます。

しかし、一触即発の状態の中に、マリアが割って入ります。

そして
「愛する人よ、この人(敵の司令官)を信じてください。」
と叫びます。

司令官は剣を投げ捨て、敵の司令官と抱き合います。
市民が平和を歌い、二人の司令官とマリアも喜びを歌い、オペラは終わります。

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