ドヴォルザークが1893年に作曲した「交響曲第9番(新世界より)」は、彼のアメリカ時代を代表する作品です。
4楽章で構成されており、彼の最後の交響曲でもあります。

その親しみやすさから、ドヴォルザークの代表曲にはとどまらず、クラシックを代表する曲として人気の高い曲でもあります。
日本国内を見ても、コンサートで取り上げられることの多い作品です。
また日本では、ベートーヴェン「運命」・シューベルト「未完成」と共に「3大交響曲」と呼ばれることもあります。

この曲を知らない人はいないのではないかと思うほど、誰もが1度は聴いたことのある作品です。

第1楽章の冒頭部分は、鉄道好きのドヴォルザークが鉄道の音をイメージして書いたと言われていることは特に有名なエピソードです。

ここではそんなドヴォルザーク「交響曲第9番(新世界より)」の解説と名盤を紹介します。

この記事のポイント

・チェコ人のドヴォルザークがアメリカにいたときに作曲した
・新世界とはアメリカを指す
・ロックの定番スケール「ペンタトニック」が多用されている

ドヴォルザーク「交響曲第9番(新世界より)」の演奏

第1楽章:Adagio-Allegro molto
第2楽章:Largo
第3楽章:Scherzo. Molto vivace
第4楽章:Allegro con fuoco

指揮:Sergiu Celibidache(セルジュ・チェリビダッケ/1912-1996)
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団(Münchner Philharmoniker)

ドヴォルザークのアメリカ時代の作品

ドヴォルザーク

1892年にドヴォルザークはニューヨークの音楽院に院長として呼ばれ、そこで約3年間を過ごしました。

あの有名なカーネギーホールの内にある音楽院の院長でした。

ドヴォルザークのアメリカでの3年間は、彼にとって重要な作品を生み出した時期でもありました。
アメリカ時代の作品としては「新世界より」の他には、「アメリカ」「チェロ協奏曲」などが挙げられます。

新世界=アメリカ

この作品のタイトルとなっている「新世界」とは「アメリカ」のことを指します
新世界アメリカへ移住してきたドヴォルザークが、故郷へ向けて書いた曲が「新世界より」なのです。
これはアメリカの黒人音楽が、ドヴォルザークの故郷であるボヘミアを彷彿させたことに刺激を受けたとも言われています。

初演は1893年にカーネギーホールでおこなわれ大成功に終わり、それは交響曲としては考えられないほどの大盛況だったそうです。

アメリカ風の交響曲

ニューヨーク

「新世界より」はアメリカの風を感じるものの、構成自体は以前の交響曲にのっとっています。
第1楽章の主題が全楽章で用いられていますので、それを意識して聴いてみると面白いでしょう。

ロックの定番スケール「ペンタトニック」

この交響曲が人気のある最も大きな理由は、クラシックの垣根を超えた美しいメロディが次々と溢れ出てくることにあります。
メロディにはペンタトニックとシンコペーションが多用されています

ペンタトニックでシンコペーションと言えば、ロックのギタリストがメロディを奏でるときの常套手段です。
ここにも親しみやすさの理由があるのかもしれません。

ちなみにアメリカのインディアンやニグロの音楽から拝借したメロディーやリズム、ハーモニックを用いて「新世界より」は作曲されたと言われることもありますが、ドヴォルザーク自身はそれを否定しています。

曲の構成

全部で45分程度の演奏時間で、4楽章で構成されています。

第1楽章 Adagio-Allegro molto

弦楽器を中心とする序奏が奏でられ、一度盛り上がりをみせた後に、ホルンによる第1主題が流れます。
第1主題は弦に引き継がれ、トランペットも加わり激しさをまします。

音楽が落ちついたところで、黒人霊歌が思い起こされる柔らかな第2主題が、フルートとオーボエによって演奏されます。
穏やかな雰囲気の中でフルートが美しいメロディを奏で、それを弦が受け継ぎます。

展開部・再現部を経て最後はトランペットが高らかに鳴り、力強く盛り上がったところで第1楽章は劇的に終わります。

第2楽章 Largo

第2楽章では、日本人にも耳馴染みのあるイングリッシュホルンによる主部の主題が登場します。
この主題はドヴォルザークの死後に愛唱歌(「家路」「遠き山に日は落ちて」など)として歌詞付きで編曲されています。
「遠き山に日は落ちて」の歌詞とメロディは、日本人なら一度は必ず耳にしたことがあるのではないでしょうか。
このメロディは、静かな短い序奏の後にすぐに現れます。
耳慣れてしまっているメロディのため、なぜか懐かしい感情を覚えてしまいます。

後半では第1楽章の第1主題の動機も奏でられます。
ラストは有名な冒頭の主題がイングリッシュホルンにより再び登場し、穏やかな雰囲気の中で第2楽章は終わります。

オペラ構想中での作曲

ドヴォルザークは当時アメリカの詩人ロングフェローの叙事詩「ハイアワサの歌」をオペラ化を検討していました。
第2楽章はこの「ハイアワサの歌」をイメージして作曲されたと言われています。

ロングフェローは1800年代前半から後半にかけて活躍したアメリカの詩人で、この他に「ポール・リビアの騎行」(Paul Revere's Ride)、「人生讃歌」(A Psalm of Life)、「エヴァンジェリン」(Evangeline)などが代表作として知られています。
またダンテの「神曲」をアメリカで初めて翻訳した人物でもあります。

「ハイアワサの歌」はインディアンの英雄を謳っており、三宅一郎さんによって1993年に日本語にも訳されています。

第3楽章 Scherzo. Molto vivace

第3楽章も「ハイアワサの歌」をイメージしており、ここでは先住民が踊る場面を表現したとドヴォルザーク自身が語っています。
主部と2つのトリオ、コーダからなっており、1つ目のトリオは民謡風で2つ目のトリオは西洋風に作曲されています。
コーダでは第1楽章の2つの主題が登場します。

第4楽章 Allegro con fuoco

映画「ジョーズ」そっくりのフレーズで盛り上がりをみせた後に、ホルンとトランペットが有名な第1主題を奏でます。
続いて第1主題とは雰囲気をガラリと変えて、クラリネットが第2主題を優美に演奏します。
各楽器が加わり音楽は一層華やかになりますが、やがて一度音楽は穏やかになり、展開部へと続きます。

展開部では「遠き山に日は落ちて」のメロディが再び登場します。
各楽章の主要主題が登場し、最後は壮大なクライマックスの中で幕を閉じます。

「交響曲第9番(新世界より)」のオススメ名盤

数多く残されている録音の中でも、このCDは間違いなく定番であり名盤である1枚です。
クラシック入門者はもちろんのこと、クラシックファンの人でもまだ聞いたことのない人にはオススメです。

ノリのいい大迫力の音楽というよりは、もっと奥深い何度聞いても飽きない名演が楽しめます。
ドヴォルザークと同じチェコ人であるチェコ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏が、ドヴォルザークの人柄までも表現しているように聴こえるのは気のせいではないのかもしれません。
ライブ録音ですが、雑音やノイズはそれほど気にならないと思います。

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