『イワン雷帝(Ivan the Terrible)』は、セルゲイ・プロコフィエフ(Sergei Prokofiev/1891年-1953年)によって、1942年から1945年にかけて作曲されました。

映画のための音楽で、映画は全3部で制作される予定でした。
しかし第2部がスターリンを批判した内容にもとれたため上映が禁止され、第3部は完成されませんでした。
そのため映画としては未完の作品となっています。

ここではプロコフィエフ『イワン雷帝』の解説とあらすじを紹介したいと思います。

プロコフィエフ『イワン雷帝』の演奏

演奏:チューリッヒ芸術大学オーケストラ
合唱:チューリッヒ芸術大学合唱団

映画のために作曲された

ロシアの映画監督、セルゲイ・エイゼンシュテインは、自身の映画『イワン雷帝(Ivan the Terrible)』の音楽をプロコフィエフに任せました。
1938年の映画『アレクサンドル・ネフスキー』でも彼らは共演しており、これは彼らにとって二度目の共演でした。

そしていずれの音楽においても歌詞はウラディーミル・ルゴフスキー (Vladimir Lugovskoy)が担当しています。

イワン雷帝とは?

タイトルにもなっている「イワン雷帝」とは、16世紀のモスクワ大公、モスクワ・ロシアの初代ツァーリであるイヴァン4世の異称です。

暴君「イワン雷帝」

イヴァン4世は、残虐で冷酷な性格を持ちロシア史上最大の暴君として語られています。
「イワン雷帝」の名は、その性格から来ています。

歴史的に見ると、イヴァン4世は大貴族の専横を抑えるために粛清、恐怖政治をおこないました。
しかし、彼は大貴族の勢いを止めることはできませんでした。
結果的に、彼の死後は大貴族がモスクワ国家をしばらく実質的に支配することになります。

第1部:1547年から1565年まで

第1部は1547年から1565年までが描かれています。

戴冠/アナスタシアの結婚

1547年、イヴァン4世の「ツァーリ」としての戴冠から始まります。
イヴァン4世は外敵から祖国を守ることを宣言し、直後にアナスタシア・ロマノヴナを妻として迎えます。

カザンの征服/大病/内部の対立

1552年、イヴァン4世はカザン・ハン国の征服を達成します。
しかしイヴァン4世はカザンからの帰国の途で命に係わる大病を患ってしまいます。
ここで後継者問題が起こり、妻の「ザハーリン家」と伯母・エフロシニアの「反ザハーリン家」が対立を深めます。

妻の死/退位/民衆の懇願

この対立が悲劇を生みます。
伯母・エフロシニアが妻・アナスタシアに毒を盛り、毒殺してしまうのです。
イヴァン4世は悲しみにくれ退位し、モスクワを離れます。
それに対し、民衆はイヴァン4世に戻ってくるように懇願します。

第2部:1565年から1569年まで

第2部は1565年から1569年までが描かれています。

イヴァン4世の恐怖政治

イヴァン4世は民衆の懇願により、即位に返り咲きます。

第2部ではイヴァン4世が大貴族の権力と戦うために、恐怖政治をおこないます。
そこでイヴァン4世の残虐で冷酷な性格が浮かび上がってきます。

腹心の裏切り

その中ではイヴァン4世の腹心中の腹心であるアンドレイ・クルプスキーの裏切りが起こります。
モスクワ府主教フィリップも裏切り、さらにイヴァン4世は大貴族への弾圧も強めていきます。
そして、その手はフィリップの周りにも及びます。

暗殺計画

その頃、妻・アナスタシアを毒殺した伯母・エフロシニアは、イヴァン4世の暗殺を計画しています。

イヴァン4世暗殺のため、ウラジミールが刺客と共に宴会を訪れますが、イヴァン4世はその計画に感づきます。
そこでウラジミールをイヴァン4世の格好にさせると、刺客は間違えてウラジミールを殺してしまいます。

エフロシニアは狂乱します。
一方イヴァン4世は外国との戦いを誓います。

プロコフィエフ死後に「オラトリオ」は完成

映画で使われた音楽はプロコフィエフの生前に出版されることはありませんでした。

彼の死後からしばらくして、『イワン雷帝』はオラトリオとして編曲されました。
スタセーヴィチ(Abram Stasevich/1961年)版、アトフミヤン(Levon Atovmyan/1961年)版、ランケスター(Michael Lankester/1988年)版がありますが、録音・公演の多くはスタセーヴィチ版です。

また1973年にはバレエ音楽としても編曲(Mikhail Chulaki/Yuri Grigorovich)されており、これは1975年に初演されています。

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