項目データ
初演1642年12月26日 サン・ジョヴァンニ・エ・パオロ劇場(ヴェネツィア)
原作プブリウス・コルネリウス・タキトゥスの「年代記」第14巻
台本ジョヴァンニ・フランチェスコ・ブゼネッロ(Giovanni Francesco Busenello/1598-1659)
演奏時間2時間30分

ポッペアの戴冠(L'Incoronazione di Poppea)』は、バロック時代の作曲家、クラウディオ・モンテヴェルディ(Claudio Monteverdi/1567年-1643年)が72歳の頃に作曲した最後のオペラです。
物語は帝政ローマの史実に基づいています。

モンテヴェルディはこの他にも『オルフェオ(L'Orfeo)』『ウリッセの帰還(Il ritorno d'Ulisse in patria)』などの傑作オペラも遺しています。

ここではオペラ『ポッペアの戴冠』のあらすじを紹介したいと思います。

主な登場人物

登場人物詳細
ネローネ(ソプラノ、テノール)ローマ皇帝
オッターヴィア(メゾソプラノ)ネローネの妻、皇后。最後に皇后を奪われローマを去る。
オットーネ(カウンターテノール)ポッペアの夫、ローマの将軍
ポッペア(ソプラノ)オットーネ将軍の妻で、最後にネローネと結婚し皇后になる
ドルジッラ(ソプラノ)宮殿内侍女。オットーネを愛している。
アルナルタ(コントラルト、テノール)ポッペアの乳母
セネカ(バス)哲学者、ネローネの補佐役

など

『ポッペアの戴冠』の簡単なあらすじ

時間のない方のための簡単な「30秒あらすじ」

ネローネ(ローマ皇帝)は浮気相手ポッペアと結婚しようと考えます。
そこで邪魔の存在だったセネカ(哲学者)を自殺させ、妻オッターヴィアを国外に追放します。
悪女のポッペアもそれに加担します。

ポッペアが皇后の座を奪い取り、オペラが終わります。

第1幕:『ポッペアの戴冠』のあらすじ

プロローグ

幸運の女神、美徳の女神が現れそれぞれの力を訴えています。
最後に愛の女神が現れ、愛が最高の力を持っていると訴えます。

ネローネがポッペアと浮気をしている

第1幕:第1場 ポッペアの屋敷の外

オットーネ(ローマの将軍)が戦地から帰還すると、護衛兵が居眠りをしています。
そのとき、妻ポッペアはローマ皇帝ネローネと浮気をしています。
妻を愛しているオットーネは嘆き悲しみます。

護衛兵が目を覚ましたところに、ネローネがポッペアに見送られて出ていきます。
ネローネは「妻・皇后オッターヴィアと離婚して、ポッペアを妻にする」ことを約束します。

第1幕:第2場 ポッペアの屋敷の中

ポッペアの乳母アルナルタが、ポッペアのおこないを責めます。
しかし、ポッペアはそれを気にも留めません。

ネローネが「補佐役セネカの忠告」に腹を立てる

第1幕:第3場 皇帝の宮殿

皇后オッターヴィアは夫ネローネの浮気を嘆いています。(Disprezzata regina)

「Disprezzata regina」

乳母が慰めオッターヴィアにも浮気を勧めますが、オッターヴィアはその気にはなれません。
オッターヴィアは哲学者セネカにネローネに忠告してくれるよう頼みます。

ネローネはセネカに「オッターヴィアは冷たいし子供もできないから、離婚してポッペアと結婚する。」と言います。
セネカがそれをいさめると、ネローネは怒ってセネカを宮廷から追い出してしまいます。

ポッペアがネローネを利用し「セネカの死」を誘導する

第1幕:第4場 ポッペアの寝室

ネローネがポッペアのもとを再び訪れ「ポッペアを皇后にする」と言います。
ポッペアは喜びますが、セネカの存在が気になります。

ポッペアは「セネカが皇帝をさげすんでいる」とネローネに吹き込みます。
怒ったネローネは衛兵を呼び、セネカに今日中に自殺するよう命じます。

オットーネ(ポッペアの夫)は妻が忘れられない

第1幕:第5場 ポッペアの屋敷の外

オットーネがバルコニーにいる妻ポッペアに不貞を訴えますが、ポッペアは相手にしません。

そこに皇后の侍女ドルジッラがオットーネに言い寄ってきます。
しかしオットーネはポッペアへの愛を諦めきれずにいます。

第2幕:『ポッペアの戴冠』のあらすじ

セネカに「自殺の命令」が下り、命を落とす

第2幕:第1場 セネカの家

メルクリオ神がセネカの前に現れ、セネカの死が近いことを予言します。

間もなくして衛兵が現れ、セネカに自殺の命が伝えられます。
家族や友人の制止もむなしく、セネカは命令に従い浴槽の中で手首を切り息絶えます。
(Amici è giunta l'ora / Non morir, Seneca)

「Amici è giunta l'ora / Non morir, Seneca 」

第2幕:第2場 宮殿の庭

小姓が女官に言い寄っています。
女官は小姓を子供だと相手にしませんが、次第に仲良くなります。

第2幕:第3場 宮殿の中

セネカの死の宴が開かれています。
ネローネは廷臣ルカーノとポッペアの美しさを歌います。
ポッペアもその喜びに加わります。

オットーネが妻ポッペアの殺害に向かう

第2幕:第4場 宮殿の部屋

皇后オッターヴィアは、ポッペアの殺害をポッペアの夫オットーネに命じます。(Tu che dagli avi miei havesti le grandezze)

「Tu che dagli avi miei havesti le grandezze」

オットーネは侍女ドルジッラの衣装を借りて変装し、ポッペアの元へ向かいます。

愛の神の力で、「ポッペア殺害計画」は失敗する

第2幕:第5場 宮殿の庭

ポッペアはセネカの死で訪れる「皇后への座」に胸を躍らせています。
そして愛の女神に祈りを捧げながら、そのまま庭で眠りにつきます。
(Or che Seneca è morto... Adagiati, Poppea...Oblivion soave)
無防備な彼女の前に「愛に神」が降りてきて、彼女を守ろうと言います。

「Or che Seneca è morto... Adagiati, Poppea...Oblivion soave」

そこに女装したオットーネが現れ、ポッペアを殺そうとします。
しかし愛の神がそれを制します。

ポッペアは目を覚まし乳母アルナルタを呼びます。
オットーネは逃げ、乳母がそれを追っていきます。

第3幕:『ポッペアの戴冠』のあらすじ

オッターヴィアが国外に追放される

第3幕:第1場 路上

乳母アルナルタと警官は、侍女ドルジッラを暗殺犯だと思いこみ逮捕します。
オットーネを愛するドルジッラは状況を理解し、愛するオットーネの身代わりとなり命を絶とうと決意します。

しかしネローネがドルジッラに死刑を言い渡すと、オットーネが自分が真犯人だと名乗り出ます。
ネローネは二人に国外追放を告げます。
そしてオッターヴィアもポッペア殺害に関与したとして追放されます。

ネローネとポッペアが結ばれる

第3幕:第2場 宮殿

オッターヴィアは嘆き悲しみローマを去ります。(Addio, Roma! Addio, patria! amici, addio!)

「Hoggi sarà Poppea di Roma imperatrice/Addio, Roma! Addio, patria! amici, addio!」

最後に戴冠式が盛大におこなわれ、ネローネとポッペアの愛の二重唱の中でオペラは終わります。

『ポッペアの戴冠』の解説

『ポッペアの戴冠』は、古代ローマ帝国の皇帝ネローネがポッペアを皇后とする物語を描いています。

2000年前の皇帝である"暴君ネロ"を描いたオペラ

ローマ皇帝ネローネは、 今から約2000年も前の西暦37年から68年までを生きた人物です。
一般的には"ネロ"と呼ばれており、「暴君」として知られています。
有名な逸話では、「ローマの大火を自らで起こし、キリスト教徒に罪を被せ弾圧した」というものが残されています。

 暴君として名高いネローネですが、被災者の救済やローマ市の再建をおこないました。
そのため"ローマ市民に愛されていた"とも言われています。

ネローネは政略結婚でオッターヴィアと結婚しましたが、二人の関係はうまくいきませんでした。
子供が出来なかったのも理由の一つだったとも言われています。
その間に、ネローネは別の女性(ポッペア)を愛してしまいました。

ネローネは妻オッターヴィアを処刑します。
そしてポッペアと結婚しました。
波乱万丈のネローネでしたが、彼の最後は反乱で追われての自殺でした。

ネローネの語り継がれる暴君ぶり

55年:義弟ブリタニクスを毒殺
59年:母アグリッピナを暗殺
64年:キリスト教徒の弾圧
65年:セネカを自殺させる
68年:反乱により自殺

ネローネは"良い皇帝"である説も!?

ネローネは当時富と権力を持っていた元老院議員たちから財産を取り上げ、それを市民に分け与えました。
ネロを悪者とする話は、元老院議員たちからの記録が主なものです。
仮に一般市民からの話が今に伝われば、イメージは逆になっている可能性もあります。

セネカを自殺に追い込んだことも、「自分を皇帝から引きずり降ろそうとした」という理由がありました。
しかし「死」に追いやった人物が多くいることには変わりません。
セネカや、二人の妻、母親など殺害したことが、より「暴君」のイメージを強めているのかもしれません。

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