『スペードの女王』あらすじと解説（チャイコフスキー）

『スペードの女王』は、ピョートル・チャイコフスキー（Pyotr Tchaikovsky/1840年-1893年）によって作曲された彼の最高傑作とも言われているオペラです。
チャイコフスキーは10曲のオペラを書きましたが、この作品は彼の最晩年の作品に当たります。

1890年のフィレンツェ（イタリア）滞在中にわずか6週間程で草稿の作曲は完成され、オーケストレーションはロシアに帰ったのちに4か月ほどかけて作曲されました。
チャイコフスキーはこのオペラに情熱を注ぎ、その出来に自信を持っていたそうです。
初演は大成功とまではいきませんでしたが、次第に人気を獲得し、特に西欧では人気の高いオペラへとなりました。

ここでは、チャイコフスキーのオペラ『スペードの女王』のあらすじを紹介したいと思います。

主な登場人物

ポリーナ（Ms）、マーシャ（S）等

『スペードの女王』の簡単なあらすじ

時間のない方のための「簡単なあらすじ」

【"負けない3枚のカード"の伝説】
伯爵夫人は、かつてヴェルサイユ宮殿でのトランプの賭けで、"負けないカードの秘密"を使って大勝ちをしました。
そして、その秘密を二人に教えました。
すると亡霊が現れ、亡霊は"秘密を無理やり聞き出そうとする3人目の男によって、お前は死を迎えるだろう"と警告しました。

【ゲルマンがカードの秘密の虜になる】
この3人目の男が物語の主人公ゲルマンです。

ゲルマンはリーザ（伯爵夫人の孫）と身分違いの恋をします。
ゲルマンは「カードの秘密」を知ることで、身分の違う恋を成就させようとします。

【ヒロインと伯爵夫人の死】
しかし、これが悲劇の始まりでした。
ゲルマンが伯爵夫人から秘密を聞き出そうと彼女を脅すと、彼女はショック死します。
ゲルマンは次第に「カードの秘密」の虜となり、狂っていきます。
そのことで絶望したリーザは、自ら河に身を投げて命を落とします。

【ゲルマンの死】
最後の犠牲者がゲルマン自身です。
ゲルマンはトランプの賭けで「カードの秘密」通りに、全財産をA（エース）に賭けます。
しかし、出てきたカードはAではなく、「スペードの女王（クイーン）」でした。
正気を失ったゲルマンも短剣で自害し、このオペラは終わります。

第1幕：『スペードの女王』のあらすじ

ゲルマンは「身分の高い"名も知らぬ女性"」に恋をしている

18世紀末：ペテルブルク（今のサンクトペテルブルク）の公園

子供たちが公園で遊び、それを子守や家庭教師たちが見守っています。

そこに二人の士官（チェカリンスキーとスーリン）が現れ「昨日ゲルマンも徹夜でトランプをやってたんだけど、金をかけずに見てるだけなんだよ。」「あいつ変わってるよな。」と話しています。

ゲルマンがトムスキー伯爵（友人）と現れると、二人の士官は立ち去ります。
ゲルマンはトムスキーに「身分の高い"名も知らぬ女性"に恋をしてしまった。」と相談します。(Ya imeni yeyo ne znayu)

ゲルマンの恋した女性（リーザ）には婚約相手がいた

大勢の人々が現れ「晴れた日の散歩の楽しさ」を歌い上げると、再び舞台はゲルマンがトムスキー伯爵の二人になります。

ゲルマンは「この恋が破れたら死ぬしかないよ…」と思い詰めています。
そこにエレツキー公爵が婚約者リーザと伯爵夫人（リーザの祖母）と登場します。

ゲルマンは「恋した女性に婚約相手がいた」と知って絶望します。

伯爵夫人が知る「負けない3枚のカードの秘密」

舞台は変わり、二人の士官（チェカリンスキーとスーリン）が「伯爵夫人の噂」をしているところに、トムスキーも加わります。

トムスキーは
「かつてヴェルサイユ宮殿で開かれたトランプ大会で、伯爵夫人は"負けない3枚のカード"を使い大勝ちをした。」
「そして、そのカードの秘密を二人（夫と青年）に教えた。」
「すると亡霊が現れ、亡霊は"秘密を無理やり聞き出そうとする3人目の男によって、お前は死を迎えるだろう"と警告した。」
という噂を歌い上げます。(Odnazhdy v Versale)

それを聞いたゲルマンは「3枚のカードの秘密を聞き出し、公爵からリーザを奪う」ことを決意します。

リーザもゲルマンのことが気になっている

リーザの部屋
リーザとポリーナが夕暮れの美しさを歌い、さらにポリーナは一人で悲し気な歌を歌います。
続いてポリーナや女性たちが騒いでいると、現れた家庭教師に叱られ、皆は去っていきます。

一人になったリーザは「私は婚約者より、あの暗い悲し気な人（ゲルマン）が気になっている」と涙します。(Zachem zhe eti slyozy)

"Zachem zhe eti slyozy"

リーザとゲルマンが「永遠の愛」を誓いあう

そこにバルコニーの扉から、ゲルマンが突然現れます。

リーザはゲルマンに「出てって！大声をあげるわよ！」と言います。
しかしゲルマンが「天上の人よ許してください。あなたへの愛の苦しみを、あなたの涙で励ましてください」と熱く愛を歌いあげると、リーザの心は傾き始めます。(Prosti,prelestnoe sozdanye)

そこに騒ぎに気付いた伯爵夫人がドアをノックするので、リーザはゲルマンを一度カーテンの裏へ隠します。
そして伯爵夫人が去って再び二人きりになると、リーザとゲルマンは熱く抱擁し「愛しています！私は永遠にあなたのものです！」と誓い合います。

第2幕：『スペードの女王』のあらすじ

リーザと公爵の婚約披露日

ある金持ちの家の仮面舞踏会

賑やかに仮面舞踏会が開かれています。
3人（チェカリンスキー、スーリン、トムスキー）は「最近ゲルマンは"カードの秘密"に夢中で狂ってるよ。」とゲルマンの噂をしています。

そこにエレツキー公爵とリーザが現れます。
婚約披露日にもかかわらず、リーザの表情は暗いままです。
エレツキー公爵は彼女への愛を歌い上げます。

リーザがゲルマンに「自分の部屋に通じる鍵」を渡す

入れ替わりで、ゲルマンが現れます。
ゲルマンは「余興の後、広場で会いましょう」と書かれたリーザからの手紙を持っています。

余興が終わると、リーザは仮面をつけたままゲルマンに近づき「伯爵夫人の部屋の鍵」を渡します。

そしてリーザはゲルマンに「祖母（伯爵夫人）はいないから、私の部屋まで来てね。」と告げます。
リーザが立ち去ると、ゲルマンは「これで"3枚のカードの秘密"を知ることができる！」と興奮します。

銃を向けられた伯爵夫人が「ショック死」する

夜：伯爵夫人の寝室
ゲルマンが部屋に忍び込むと、伯爵夫人が帰ってくるので、ゲルマンは物陰に隠れます。

そして伯爵夫人が昔を懐かしんでいるときに、ゲルマンが突然現れます。

ゲルマンは伯爵夫人に「"3枚のカードの秘密"を教えてください。」と頼みます。
ゲルマンは次第に興奮し、遂には彼女に銃を向けます。
すると、彼女は「ショック死」をしてしまいます。

リーザは怒り悲しみ、ゲルマンを追い出す

そのときリーザが「伯爵夫人の部屋」に入ってきます。
リーザは「伯爵夫人の死」に驚きます。

ゲルマンは必死に弁解しますが、リーザが受け入れるはずがありません。
リーザは「目的は私ではなく"カードの秘密"だったのね！」と怒り、彼を追い出します。

ゲルマンが去っていく一方で、リーザは伯爵夫人の亡骸を前に泣き崩れます。

第3幕：『スペードの女王』のあらすじ

伯爵夫人の亡霊がゲルマンに「カードの秘密」を教える

半年後：ゲルマンの部屋

事件から半年後、ゲルマンが「リーザからの手紙」を読んでいます。
手紙には「あなたは故意に伯爵夫人を殺したわけではない、と信じます。今日堤防で会いましょう。」と書かれていました。

するとゲルマンが恐怖を感じる中で、伯爵夫人の亡霊が現れます。
亡霊は「リーザと結婚するなら、カードの秘密を教えてやる。」「カードは3,7,A(エース)だ。」と告げ、去っていきます。

ゲルマンがカードに狂い、リーザは河に身を投げる

運河のほとり
リーザがゲルマンを待っています。
リーザはゲルマンのことで悩み疲れ果ててしまっています(Ah, Istomilas Ya Gorem)が、ゲルマンはなかなか現れません。

ようやくゲルマンが現れると、二人はひと時の愛を確かめ合います。
しかし、既に気の狂っているゲルマンは「カードの秘密がわかったんだ！…お前は誰だ！？早く賭博場へ行かないと！」とリーザを突き飛ばします。
そしてゲルマンはリーザを置いて、一人で去っていきます。

リーザは絶望し、運河に身を投げて死んでしまいます。

ゲルマンが「スペードのクイーン」を引いて賭けに負ける

深夜の賭博場
多くの人が賭博場で遊んでいます。
そこでエレツキー公爵も「恋に破れたものは、賭けに恵まれる」と賭けに参加します。

そこにゲルマンが現れます。
ゲルマンは全財産を賭けてトランプに臨みます。
ゲルマンは「カードの秘密」の通りに、3（一度目）、7（二度目）と賭け、次々と勝利します。

3度目の対戦相手には、エレツキー公爵が名乗り出ます。
結果は、ゲルマンはA（エース）を引くはずが、「スペードの女王（クイーン）」を引いて負けてしまいます。

伯爵夫人の亡霊を見たゲルマンが、短剣で自害する

そして伯爵夫人の亡霊が現れると、ゲルマンは「おれの命ならくれてやる！」と短剣で自らの胸を刺します。

亡霊が立ち去ると、ゲルマンは
「公爵、許してください！」
「リーザ、迎えに来てくれたのか！？」
「君を愛している！」
と叫び、息絶えます。

皆が「彼を許してください！」と神に歌う中でオペラは終わります。

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