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フランツ・ペーター・シューベルト(Franz Peter Schubert/1797年~1828年)の「冬の旅(Winterreise)」は1827年に作曲されました。
2部に分かれた24の歌曲からなる連作歌曲集で、その中でも3連符の伴奏が印象的で情景が頭の中に浮かび上がるような「菩提樹(第5曲)」はよく知られています。
シューベルトは31歳の若さで生涯を終えましたが、その亡くなる1年前に書いた最後の歌曲集でもあります。
恋に破れた主人公の孤独な冬の一人旅が描かれており、数多く残したシューベルトの歌曲の中でも特に人気が高く、コンサートで取り上げられる機会も多くあります。
ここでは、シューベルトの「冬の旅(Winterreise)」の解説と名盤を紹介したいと思います。
ドイツリートの価値を高めたシューベルト
ドイツ語の歌曲、いわゆるドイツリートはシューベルト以前から存在しましたが、シューベルトはその価値を高めプロの演奏家によって演奏される音楽へと発展させました。
それまでのドイツリートは音楽愛好家や一般の人たちによって歌われる歌謡曲のようなものでした。
シューベルトは、そのドイツ歌曲における功績の大きさから「歌曲の王」とも呼ばれています。
多くの歌曲を当時のバリトン歌手フォーグルのために書いたため、バリトンにピッタリの歌曲が多く残されています。
※この「冬の旅」はテノールのために書かれた作品です。
シューベルトは歌詞には無頓着だった!?
シューベルトはゲーテやシラーと言った大詩人以外からも積極的に歌詞を取り入れました。
無名のアマチュアの詩人の詩を歌詞として用いることもしばしばありました。
そのため「シューベルトは歌詞には無頓着だった」とも言われています。
人気詩人ミューラーによる「冬の旅」
そんな中、シューベルトがこの作品集の歌詞として選んだのがドイツの詩人ヴィルヘルム・ミューラーの詩でした。
ミューラーは後期ロマン派の中でも特に人気の高かった詩人でした。
ミューラーはゲーテやシラーほど堅苦しくなく、親しみの持てる詩が特徴的です。
そのため庶民へ向けた歌でもミューラーの歌詞は使われたりしています。
ちなみにシューベルトのもう一つの代表的な連作歌曲集である「美しき水車小屋の娘」もミューラーの詩によるものです。
「美しき水車小屋の娘」は恋の始まりから書かれているのに対し、「冬の旅」では主人公は失恋した状態から始まります。
死を目前にしたシューベルトが残した傑作
「冬の旅」を作曲した年と同年の1827年3月26日に、シューベルトが尊敬したやまなかったベートーヴェンがこの世を去りました。
その葬儀に参列し、その後の酒場で「この中で最も早く死ぬ奴に乾杯!」とシューベルトが言ったというエピソードが残っています。
まさかその翌年にシューベルト自身も息を引き取り、敬愛するベートーヴェンの墓の隣で眠ることになるとは彼自身思ってもみなかったことでしょう。
シューベルトは1823年頃から体調を崩しており、この頃は経済状態も苦しく私生活は苦しいものでした。
ちょうどこの頃に「冬の旅」の前半の12曲を作曲していたと言われています。
この前半部分を聴いた友人たちは、曲の暗さに驚いたそうです。
残りの12曲はこの年の秋ごろから作曲され始め完成されましたが、シューベルトがこの世を去る3日前まで「冬の旅」についての筆をとっていたと言われています。
ちなみに詩人のミューラーもベートーヴェンと同年の1827年10月1日に亡くなっています。
シューベルトはミューラーの詩を扱いましたが、彼らは直接面識はなかったそうです。
ベートーヴェンとミューラーの死、そして自分自身の体調の悪化、シューベルト自身にとって死を考えずにはいられなかった時期の作品なのかもしれません。
シューベルト「冬の旅(Winterreise)」の名盤
「冬の旅」と言えばフィッシャー=ディースカウが「ザ・定番」かもしれませんが、「冬の旅」はテノールのために書かれた曲です。ここでは敢えて現在のクラシック界のスーパースターでイケメンテノール歌手であるカウフマンの録音を紹介したいと思います。
オペラ歌手としての印象が強いかもしれませんが、ドイツ人らしく美しいドイツリートを聴かせてくれます。
第1部 Erste Abteilung
1. Gute Nacht(おやすみ)
2. Die Wetterfahne(風見の旗)
3. Gefrorne Tränen(凍った涙)
4. Erstarrung(氷結)
5. Der Lindenbaum(菩提樹)
6. Wasserflut(溢れる涙)
7. Auf dem Flusse(川の上で)
8. Rückblick(回想)
9. Irrlicht(鬼火)
10. Rast(休息)
11. Frühlingstraum(春の夢)
12. Einsamkeit(孤独)
第2部 Zweite Abteilung
13. Die Post(郵便馬車)
14. Der greise Kopf(霜おく頭)
15. Die Krähe(烏)
16. Letzte Hoffnung(最後の希望)
17. Im Dorfe(村にて)
18. Der stürmische Morgen(嵐の朝)
19. Täuschung(まぼろし)
20. Der Wegweiser(道しるべ)
21. Das Wirtshaus(宿屋)
22. Mut(勇気)
23. Die Nebensonnen(三つの太陽)
24. Der Leiermann(辻音楽師)
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