エドワード・エルガー(Edward Elgar/1857年-1934年)の『交響曲第1番』は、1907年から1908年にかけて作曲されました。
彼が残した2つの交響曲のうちの第1作目で、彼にとっても重要な作品です。
またイギリスではもちろん、アメリカやヨーロッパでも定期的に演奏されるプログラムとして人気を得ています。

エルガー『交響曲第1番』の演奏

指揮:マーティン・ブラビンス(Martyn Brabbins/1959年-)
管弦楽:BBC交響楽団(BBC Symphony Orchestra)

国民が待ち望んだエドガーの交響曲

当時のエドガーは既に英国を代表する作曲家としての地位を築いており、1904年(『交響曲第1番』初演の4年前)にはナイトの称号を与えられていました。
また「エドガーが10年以上交響曲を作曲しようとしている」ことは国民に知れ渡っており、その完成が発表されたことには大きな関心が集められました。

英国の軍人ゴードンのために作曲しようとしていた

エルガーは交響曲作曲の約10年前に「英国の軍人ゴードン」のために交響曲を書くというアイデアを持っていたそうです。
1899年に友人アウグスト・イェーガーに、その旨の手紙を書いています。

 チャールズ・ゴードン(Charles Gordon/1833年-1885年)
英国で人気のある軍人
太平天国の乱(1851年、清で勃発)で民兵組織の常勝軍を率いて活躍
スーダンの首都ハルツームで戦死した

しかし結局はこの構想は実現することはありませんでした。
実際エルガーは音楽評論家に「新しい交響曲はゴードンとは関係がない。」と語っています。

またエルガーは作曲家ウォルフォード・デイヴィスには「愛と希望に溢れる人間の人生での巨大な経験を超えるプログラムはない。」とも語っています。
エルガーは単純に素晴らしい至高の交響曲を作曲したかったのかもしれません。

 ウォルフォード・デイヴィス
イギリスの作曲家
エルガーがこの世を去ったあと、王の音楽師範の職を継いだ

50歳になって初めての交響曲

彼が50歳(1907年)になってから作曲が開始された『交響曲第1番』は、冬にローマを訪れた時にも続けられ、そこで第1楽章が完成しました。
そしてイギリスに戻ったのち、1908年の夏に作品は完成しました。

初演から大熱狂

初演は1908年12月3日にフリートレードホール(イギリス・マンチェスター)で行われました。
指揮ハンス・リヒター、演奏ハレ管弦楽団による初演は大成功を収め、鳴りやまぬ拍手にエルガーは何度も舞台上に登場したそうです。

初演の4日後には、同じくリヒターの指揮でロンドン交響楽団によって演奏されました。(ロンドン、クイーンズ・ホール)
その最初のリハーサルで、リヒターは「この国にとどまらず現代の最も偉大な作曲家が書いた『至高の交響曲』をリハーサルしましょう。」と団員に述べたそうです。
そして第3楽章に入ると、「これが本物のアダージョだ」とリヒターは涙ながらに語ったそうです。

 『ミュージカル・タイムズ』(現在も続くイギリスのクラシック音楽評論雑誌)は、「瞬く間に驚異的な成功を収めた」と評しました。

初演の熱は冷めることなく、初演から1年で100回以上の演奏が国内では聴かれたそうです。
国内だけでなく、初演から数週間以内にニューヨーク、ウィーン、サンクトペテルブルクの、ライプツィヒなどでも演奏されました。

またニューヨークフィルは翌年までにさらに2回のコンサートをカーネギーホールでおこない、大陸を超えて人気は高まりました。

作品は初演を指揮したリヒターに捧げられました。

 一部批判的な評価もあったそうです。

パルジファルとアイーダ!?

ニューヨークタイムスは「作品はパルジファルの影響が読み取れ、フィナーレではアイーダの影響も感じ取れる」と書きました。
またミュージカル・タイムズもパルジファルの要素に言及し、主題はブラームスの子孫のようだと評しました。

エルガー『交響曲第1番』の名盤

【収録作品】
エルガー『交響曲第1番』(1972年録音)
エルガー『交響曲第1番』(1975年録音)
【演奏】
管弦楽:ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:ゲオルク・ショルティ

ショルティが「エルガー自身の録音」を参考にして解釈した録音です。
『交響曲第1番』を録音した1972年といえば、ショルティがイギリスに帰化し「ナイトの称号」を得た年でもあります。

ショルティとロンドンフィルの関係は深く、エルガーの交響曲全集・ホルストの組曲『惑星』・リストの交響詩『前奏曲』・モーツァルトの『フィガロの結婚』などの録音を残しています。
ショルティはロンドンフィルで4年間(1979年-1983年)首席指揮者を務めましたが、演奏旅行中にショルティだけ一等席で移動するなど楽員と「仲良しこよし」ではなかったようです。

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