目次
項目 | データ |
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初演 | 1868年6月21日 ミュンヘン宮廷劇場 |
台本 | リヒャルト・ワーグナー |
演奏時間 | 4時間30分 |
ワーグナーの『ニュルンベルクのマイスタージンガー』(Die Meistersinger von Nürnberg)は、現在上演されている彼のオペラの中で唯一の喜劇作品です。
ワーグナーの旋律は複雑なものも多いですが、マイスタージンガーでは親しみやすい旋律も多く流れてきます。
そのため彼の作品の中では、聴きやすい作品の一つかもしれません。
ワーグナーは神話や伝説を題材としたオペラを多く作曲しましたが、このオペラは珍しく歴史を題材としています。
実在したマイスタージンガー、ハンス・ザックスを主人公とした物語で、台本は史実に忠実ではなくワーグナーのオリジナルによるものです。
物語の内容は「人間と芸術の素晴らしさ」を描いています。
マイスタージンガー (Meistersinger)とは「親方、名人(Meister)」と「歌手(Singer)」が組み合わさった言葉です。
彼らの文化はニュルンベルクをはじめとする南ドイツで発展し、手工業者の親方や職人、弟子たちが詩と歌の腕を磨き合いました。
ザックスは生涯に4,374篇のマイスター歌、約2,000の祝詞歌(Spruch)など多くの作品を発表しました。
当時のドイツは宗教改革の時代で、ザックスはルターの思想に深く傾倒したそうです。
ヒトラーはマイスタージンガーを利用して、ドイツ人の戦争への意識を高めたのです。
ここでは、そんなワーグナー『ニュルンベルクのマイスタージンガー』のあらすじを紹介したいと思います。
登場人物
※太字の人物のみ把握していれば、物語は十分に理解できます。
登場人物 | 詳細 |
---|---|
ハンス・ザックス(バス) | 靴屋の親方 |
ヴァルター(テノール) | フランケン地方出身の若い貴族。エファに恋をし、歌合戦に参加することを決意する。 |
ポークナー(バス) | 金細工師。エファの父。 |
エファ(ソプラノ) | ポークナーの娘 |
マグダレーネ(メゾソプラノ) | エファの乳母。 |
ダフィト(テノール) | ザックスの徒弟。マグダレーネに想いを寄せている。 |
ベックメッサー(バス) | 市書記。エファに想いを寄せている。 |
フォーゲルゲザング(テノール) | 毛皮屋。 |
ナハティガル(バス) | 板金屋。 |
コートナー(バス) | パン屋。 |
ツォルン(テノール) | 錫細工師。 |
アイスリンガー(テノール) | 香料屋。 |
モーザー(テノール) | 仕立屋。 |
オルテル(バス) | 石鹸屋。 |
シュヴァルツ(バス) | 靴下屋。 |
フォルツ(バス) | 銅細工師。 |
など多数
『ニュルンベルクのマイスタージンガー』の簡単なあらすじ
時間のない方のための簡単な「30秒あらすじ」
歌合戦で優勝した者には、「エファに求婚できる権利」が与えられます。
ヴァルターはエファに恋をしていますが、歌合戦に参加する資格がありません。
ヴァルターは資格試験に失敗しますが、歌合戦の会場で急遽"歌う権利"が与えられます。
ヴァルターは見事優勝し、ヴァルターとエファは結ばれます。
皆で芸術を称え、幕が下ります。
第1幕:『ニュルンベルクのマイスタージンガー』のあらすじ
以前から詩人に憧れを持っていたヴァルターは、故郷を出てニュルンベルクに到着します。
彼はニュルンベルクでポークナー(金細工師)に斡旋を依頼しますが、そのときにエファ(ポークナーの娘)に恋をします。
ニュルンベルクの教会
ヴァルターがエファに恋している
礼拝(合唱)が聴こえる中、ヴァルターは物陰からエファ見つめています。
礼拝が終わると、エファは乳母マグダレーネと帰ろうとします。
そこにヴァルターが現れ、「あなたはもう婚約しているのですか?」とエファに問いかけます。
歌合戦の優勝者がエファと結婚できる
乳母マグダレーネは、「明日の歌合戦で優勝したマイスタージンガーが、エファと結婚できます。」と答えます。
ヴァルターは"他の地方出身の若者"のため、歌合戦やマイスタージンガーについて何も知りません。
そこにダフィトが「マイスタージンガーになるための資格試験」の準備にやってきます。
乳母マグダレーネはダフィトに「ヴァルターに詳しい内容を教えてあげて」と頼み、エファとその場を去ります。
ヴァルターは"マイスタージンガーになるまでの厳しい道のり"を聞かされます。
そして、試験を受けることを決意します。
歌合戦出場のために、ヴァルターが資格試験を受ける
親方(マイスター)たちが入って、話し合いを始めます。
ポークナーが「歌合戦の優勝者は、エファを手に入れることができる。」ことを提案し、それが皆に受け入れられます。
親方たちの前で、ヴァルターの資格試験が始まります。
"エファに想いを寄せている"書記ベックメッサーは、ライバルの出現を嫌がり、厳しい採点をつけて失格を宣言します。
親方たちが「失敗だ!」と唱える中、ハンス・ザックスだけがヴァルターに魅了され感動を覚えます。
第2幕:『ニュルンベルクのマイスタージンガー』のあらすじ
街角
マグダレーネはダフィトから「ヴァルターが試験に失敗した。」と聞きます。
マグダレーナはがっかりした様子で家に帰っていきます。
続いてポークナーとエファ(親子)が散歩から戻ってきます。
エファは、乳母マグダレーナから「ヴァルターの試験失敗」を聞き驚きます。
エファはハンス・ザックスに相談に行くことにします。
エファが「ヴァルターの試験失敗」について、ザックスに相談に行く
ザックスの仕事場
ザックスが仕事場に現れて、まだ仕事をしているダフィトに「もう寝なさい。」と語ります。
そして先ほどのヴァルターの試験の歌を思い出し、感動しています。(Was duftet doch der Flieder)
「Was duftet doch der Flieder」
そこにエファがこっそりと入ってきて、試験の結果について尋ねます。
ザックスは「ヴァルターはダメだったよ。」「彼を救う方法はないよ。」と答えます。
エファが落胆する中、乳母マグダレーナが呼びに来ます。
そのときヴァルターが家の前を通ります。
エファとヴァルターが「駆け落ち」を試みる
エファは制止を振り切り、ヴァルターのもとへ駆け寄ります。
結婚の道が閉ざされた二人は「駆け落ち」を決意します。
しかし"会話をこっそり聞いていた"ザックスが、道を明かりで照らし阻止しようとします。
そこにベックメッサーが現れ、ポークナー家の前でセレナードを歌おうとします。
ザックスは街に向かって歌を歌い、靴底を叩いて邪魔をします。
そこにダフィトも登場します。
ダフィトは「ベックメッサーがマグダレーナへ歌を歌っている」と勘違いし、怒り殴りかかります。
近くの人々も起き、騒ぎは次第に大きくなります。
エファとヴァルターが騒ぎに紛れて逃げようとしますが、ザックスが止めに入ります。
ザックスはヴァルターを家に引き入れて、ポークナーも娘エファを家に連れ戻します。
街は再び静まり返り、幕は閉じます。
第3幕:『ニュルンベルクのマイスタージンガー』のあらすじ
ヴァルターの見た"夢"を、歌として書き上げる
ザックスの仕事場
ダフィトが昨日の騒動の謝罪のために、ザックスを訪れます。
ダフィトは謝罪を終えると去っていきます。
一人になったザックスは昨日の騒ぎを思い出しながら、人の迷いについて独白します。(Wahn! Wahn! Überall Wahn!)
「Wahn! Wahn! Überall Wahn!」
ヴァルターが起きてきて、「昨日素晴らしい夢を見た」とザックスに話します。
ザックスは「それマイスターになれということかもしれない。」「私が書きとるので歌にしましょう。」と語り、詩を紙に書き留めます。
ザックスはその歌の出来栄えに感動します。
ベックメッサーが"ヴァルターの詩"を"ザックスの詩"と勘違いし、受け取る
そこにベックメッサーがやっきて、ザックスの筆跡の詩を発見し手に取ります。
そして"ヴァルターの詩"を"ザックスの詩"と勘違いします。
ザックスは「その詩を使ってもいいよ。」「それが"私の詩"だとは誰にも言わないから。」と語り、ベックメッサーに紙を渡します。
ベックメッサーは歌合戦の歌詞ができたことに喜び、それを受け取って帰っていきます。
ヴァルターが曲を書き上げ、歌合戦へと向かう
続いて婚礼衣装に身を包んだエファが、靴の直しにやってきます。
ヴァルターは、エファに先ほどの歌の続きを歌います。
ザックスはダフィトとマグダレーナも呼び、「ヴァルターが詩を書き、曲を作った。新しいマイスター歌曲の誕生だ!」と、歌の誕生を宣言します。
そして皆で歌合戦の会場へと向かっていきます。
歌合戦の開始、ベックメッサーの失敗
様々な職人や市民たちが陣取りをしている中、マイスタージンガーたちが入場してきます。
ザックスの宣言で歌合戦が始まります。
最初にベックメッサーが歌いだします。
しかし、歌詞がうろ覚えのため上手くいかず、人々の笑いを誘います。
ベックメッサーは「この詩はザックスのものだ」「ザックスがこのひどい歌を私に押し付けたんだ!」と言い訳をします。
しかしザックスは、「この美しい歌は私のものではありません。」「作者はこの場に出て来てください。」と語ります。
ヴァルターが優勝を勝ち取る
人々の中から、ヴァルターが登場します。
そして例外的に歌合戦に参加することを認められます。
ヴァルターは見事に歌を歌い上げ、人々から称賛されます。(Morgenlich leuchtend im rosigen Schein)
ヴァルターは優勝を勝ち取り、月桂冠を受け取ります。
「Morgenlich leuchtend im rosigen Schein」
ポークナーはヴァルターに「親方(マイスター)の資格」も与えようとします。
しかし、ヴァルターは幸せだけで充分だと、それを断ります。
皆はその反応に驚きます。
人々が"ザックスと芸術"を称える
そこでザックスは「マイスタージンガーの芸術の尊さ」をヴァルターに語ります。
ヴァルターは説得を受け入れ、ドイツの芸術を称える中で、オペラは終わります。
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