項目データ
初演1867年3月11日 パリ・オペラ座
原作フリードリヒ・シラーの戯曲『ドン・カルロス』
台本(仏)フランソワ・ジョセフ・メリ、カミーユ・デュ・ロクル
台本(伊)アキッレ・デ・ラウジェレス、アンジェロ・サナルディーニ
演奏時間約3時間(版により異なる)

『ドン・カルロ(Don Carlo)』は、ジュゼッペ・ヴェルディ(Giuseppe Verdi/1813年-1901年)によって作曲されたオペラです。
※フランス語では『ドン・カルロス(Don Carlos)』
ヴェルディの中期の傑作として知られており、大規模で壮大なオペラです。

初演はフランス語で上演されましたが、同年にイタリア語版でも上演されています。
イタリア語で演奏されることが多い作品ではありますが、近年ではフランス語版の上演も増えてきています。

 『ドン・カルロ』の他に、『ラ・ファヴォリータ』(ドニゼッティ)・『ウィリアム・テル』(ロッシーニ)等も初演がフランス語のイタリアオペラの作品として知られています。

またこのオペラには多くの版があり、現在ではフランス語初演版(全5幕)・イタリア語版(全4幕or全5幕)の3種類が一般的に上演されます。

ここではヴェルディのオペラ『ドン・カルロ』のあらすじを紹介したいと思います。

主な登場人物

登場人物備考
フィリッポ2世(バス)スペイン国王、ドン・カルロの父
ドン・カルロ(テノール)スペインの王子
ロドリーゴ(バリトン)ポーザ侯爵、カルロの親友
宗教裁判長(バス)カトリック教会の最高権力者
エリザベッタ(ソプラノ)カルロを愛するが、政略結婚で国王と結婚する
エボリ(メゾ・ソプラノ)エリザベッタの女官、密かにカルロを愛する

※登場人物の読み等は「イタリア語版」での表記

『ドン・カルロ』の簡単なあらすじ

時間のない方のための簡単な「30秒あらすじ」
1560年頃:スペイン帝国・スペイン黄金世紀の最盛期
ドン・カルロ(王子)とエリザベッタは婚約関係で愛し合っています。
しかし政略結婚により、エリザベッタはカルロの父親(フィリッポ2世・国王)と結婚することになります。

カルロとエリザベッタは「天国で会う」ことを誓い、永遠の別れを交わします。
しかし、その様子を父親が見ており、カルロは捕えられそうになります。
そのとき祖父の亡霊が現れ、カルロを墓に引きずり込みオペラが終わります。


歴史的背景
フィリッポ2世は実在した人物で、このオペラには宗教問題も大きく絡んでいます。
彼は、カトリックによる国家統合を理想にかかげ、プロテスタントを弾圧します。
一方で王の息子カルロは、このオペラではプロテスタント(フランドル)を救おうとします。

ドン・カルロも実在した人物で、史上で彼は父に反逆し24歳で牢死しました。
ちなみに「エリザベッタの結婚相手がカルロから国王に変わった」ことも歴史的事実です。
史上では、エリザベッタはカルロの死の数か月後に亡くなりました。

第1幕:『ドン・カルロ』のあらすじ

ドン・カルロがエリザベッタと愛の二重唱を歌う

フォンテンブロー(パリ郊外)の森
王室の狩の日
ドン・カルロ(スペインの王子)は、婚約者のエリザベッタを一目見ようとこっそり森へ来ています。
ドン・カルロは陰からエリザベッタを見ると、一目で彼女の虜になります。

道中で、エリザベッタは道に迷ってしまいます。
ドン・カルロは「私はスペイン大使です。」と身分を偽り彼女を助けますが、やがて彼の正体が明らかになります。
二人の愛は急速に高まり、二人は愛の二重唱を歌います。

エリザベッタの婚約者が「カルロからフィリッポ2世(彼の父親)」に変更となる

しかし二人の幸せは一瞬で終わります。
祝砲が辺りに轟くと「婚約者がドン・カルロからフィリッポ2世に変更」となった知らせが届きます。

 フィリッポ2世・・・スペイン王
ドン・カルロ・・・スペイン王子、フィリッポ2世の息子

人々が婚約を祝福する中で、二人は絶望に打ちひしがれます。

第2幕:『ドン・カルロ』のあらすじ

カルロが修道院で心の平安を求めている

サン・ジュスト修道院の中
カルロが心の安らぎを求めて修道院にやってきます。
すると一人の修道士がカルロに「地上の悲しみは修道院に持ち込めるが、心の戦いは天国のみで鎮められる。」と語ります。

カルロは、それを「亡き祖父カルロ5世」と重ねて恐怖を覚えます。

 この修道士の言葉が、オペラの最後へと繋がっていきます。

カルロとロドリーゴが熱く友情を誓う

そこにロドリーゴが入ってきます。

 ロドリーゴ・・・侯爵で、カルロの親友

カルロはロドリーゴに「恋に悩む思い」を告白します。
それに対し、ロドリーゴはカルロに「あなたの恋は心にしまって、フランドルの民を救いに行きましょう!」と語りかけます。

 宗教対立により、フランドル地方(プロテスタント)はスペイン(カトリック)の圧政に苦しんでいます。
フィリッポ2世(スペイン王)は実在した人物フェリペ2世(1527年-1598年)のことで、彼は絶対主義の代表的君主の一人として知られています。
フェリペ2世は、カトリックによる国家統合を理想にかかげました。

そして二人は友情を熱く誓い合います。(Dio,che nell'alma infondere)

"Dio,che nell'alma infondere"(Rodrigo/Carlo)


※有名な部分は3:45辺りから

エボリが「カルロは私のことが好きだ」と勘違いする

サン・ジュスト修道院の庭
王妃お付きの女官たちが庭に集まり、エボリがムーア人の王様の物語を歌っています。(Nei giardin del bello saracin ostello/ヴェールの歌)

 エボリ・・・エリザベートの女官、密かにカルロに恋している。
女官たちは修道院に入れないため、庭に集まっています。

"Nei giardin del bello saracin ostello"(Eboli)

やがてエリザベッタも登場します。
ロドリーゴはエリザベッタに「カルロの手紙」を渡します。

エリザベッタは恋に悩むカルロの想いを受けて、ひどく苦しみます。
その様子を見たエボリは「カルロが自分(エボリ)に恋している」と勘違いします。

 エリザベッタは既に王と結婚し、王妃となっています。

エリザベッタが一人になると、カルロが現れ熱く愛を語りかけます。
動揺するエリザベッタですが、必死に気持ちを抑えます。

王が「カルロとエリザベッタの関係」を怪しむ

そこに突然、国王(フィリッポ2世)が現れます。
王は「エリザベッタを一人にした罰」として、ある女官を追放します。

続いて王はロドリーゴに「何かできることはあるか?」と尋ねます。
ロドリーゴは「フランドルの民が苦しんでいる惨状」を語りますが、王は「血をもってのみ平和は手にできる」と答えます。
そして王は「カルロとエリザベッタの関係」を怪しみ、ロドリーゴにそれを探るように命じます。

第3幕:『ドン・カルロ』のあらすじ

エボリが「嫉妬の炎」を燃やす

エリザベッタの庭園
「逢引の手紙」を受け取ったカルロが、庭園へやってきます。
カルロはヴェールを被った女性をエリザベッタだと思い口説きますが、ヴェールを取るとそれはエボリでした。

 カルロは「エリザベッタからの手紙」と信じていましたが、それは「エボリからの手紙」でした。

エボリは「カルロの恋する女性がエリザベッタ」だと理解し、「別の女性だと思い自分を口説いていた」ことに激怒します。
エボリは嫉妬し、復讐を決意します。

そこにロドリーゴが割って入り、カルロを擁護しますが効果はありません。
エボリが激怒し去った後、二人はあらためて友情を確認します。
そしてカルロはロドリーゴを信頼し「重要な密書」を託します。

カルロが父(フィリッポ2世)に剣を向ける

大聖堂前の大きな広場
人々が国王(フィリッポ2世)を称える中、異端者(宗教裁判で有罪)が連行されてきます。

王が現れると、彼は異端者に死刑を宣告します。
そこにカルロがフランドルの使者を従えて登場し、異端者の許しを請います。
しかし王は「異端者を反逆者」だと決めつけ、耳を傾けません。

怒ったカルロが剣を抜き、王と一触即発となったときに、ロドリーゴが止めに入ります。
王はロドリーゴに「公爵の地位」を与えます。

第4幕:『ドン・カルロ』のあらすじ

国王が「王妃に愛されず、息子に裏切られた悲しみ」を歌う

国王(フィリッポ2世)の部屋

王が「王妃(エリザベッタ)に愛されず、息子(カルロ)にも裏切られた悲しみ」を歌っています。(Ella giammai m'amò)

"Ella giammai m'amò"(Filippo)

続いて、宗教裁判長が現れ「カルロとロドリーゴの処刑」を要求します。
しかし王は要求を断り、宗教裁判長は怒って退出します。

王がエリザベッタに怒り、エボリは裏切りを後悔する。

そこにエリザベッタが突然「私の宝石箱が盗まれた」と駆け込んできます。
王が「宝石箱はここにある」と告げ箱を開けると、そこには「カルロの肖像画」が入っていました。
エリザベッタは潔白を訴えますが、王は聞き入れません。

そこにエボリとロドリーゴも入ってきます。
王とロドリーゴが去ると、エボリは裏切りを後悔し、エリザベッタに「宝石箱を盗んで王に渡したのは私です」と告白します。
そして王と不倫関係にあることも告白します。

エリザベッタはエボリに「明日の夜明けまでに、宮廷を出ていきなさい。」と命じます。
エボリは「自分の美貌のせいでこうなった!」と嘆き、「まだ一日ある。カルロ様を救わないと!」と歌い上げます。(Oh don fatale)

"Oh don fatale"(Eboli)

エボリが「囚われたカルロ」を逃がす

カルロの牢獄 
囚われたカルロの前に、ロドリーゴが現れます。
ロドリーゴは「偽の証拠を作って、カルロの罪を自分に着せた」ことを語ります。

 ロドリーゴは「カルロから預かった密書」を明らかにし、「自らの密書」とすることで罪を被りました。

そのとき突然銃声が鳴り、ロドリーゴは暗殺者に撃たれます。
死を覚悟したロドリーゴは、カルロに「エリザベッタが明日サン・ジュスト修道院で待っています。」と告げ「フランドルの地」を託し、息絶えます。(O Carlo ascolta)

"O Carlo ascolta"(Rodrigo)

そこに国王(フィリッポ2世)が現れ、続いて人々が「カルロの解放」を訴えて押し寄せてきます。
この動乱に便乗して、エボリがカルロを逃がします。

第5幕:『ドン・カルロ』のあらすじ

カルロとエリザベッタが「永遠の別れ」を愛をもって歌う

サン・ジュスト修道院

エリザベッタは「昔のカルロとの良き思い出」を懐かしみながら、カルロを待っています。(Tu che le vanità)

"Tu che le vanità"(Elisabetta)

そこにカルロが現れます。
エリザベッタは「ロドリーゴの遺言」を伝え「フランドルの民を救いに行ってください」と語ります。
そして二人は愛を秘密にしたまま「天国で再び会いましょう」と永遠の別れを告げます。

祖父の亡霊がカルロを墓に引きずり込む

そこに国王と宗教裁判長が現れ、カルロを逮捕しようとします。
しかしその時、突然「亡き祖父カルロ5世の亡霊」が現れ、カルロを墓へと引きずり込んでいきます。

エリザベッタは倒れ込み、皆が恐れおののく中でオペラが終わります。

 第2幕冒頭の「地上の悲しみは修道院に持ち込めるが、心の戦いは天国のみで鎮められる。」と語った修道士の言葉がここに繋がります。

『ドン・カルロ』の映像

1983年3月26日:メトロポリタン歌劇場

ドミンゴ、フレーニをはじめとした超豪華キャストによる声の共演です。
主役級を多く必要とする『ドン・カルロ』ですが、その中でも特に充実したキャストが揃っています。
当時のメトの豪華な演出も見ものです。

【キャスト等】
プラシド・ドミンゴ(ドン・カルロ)
ミレッラ・フレーニ(エリザベッタ)
ルイ・キリコ(ロドリーゴ)
グレース・バンブリー(エボリ公女)
ニコライ・ギャウロフ(フィリッポ二世)
フェルッチョ・フルラネット(宗教裁判長)

メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団
指揮:ジェイムズ・レヴァイン
演出:ジョン・デクスター

その他の曲目一覧(目次)

その他の作品・あらすじ・歌詞対訳などは下記リンクをクリックしてください。

クラシック作品(目次)

オペラ作品(目次)

ミュージカル作品(目次)

歌詞対訳(目次)

ピアノ無料楽譜(目次)