項目 | データ |
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初演 | 1925年3月21日 モンテ・カルロ歌劇場(モナコ) |
台本 | シドニー=ガブリエル・コレット |
演奏時間 | 45分 |
『子どもと魔法(L'enfant et les sortilèges)』は、モーリス・ラヴェル(Maurice Ravel/1875年-1937年)が作曲したオペラです。
オペラとバレエを融合させた作品で、一般的にイメージするオペラとは一味違ったラヴェルらしい美しい音楽が特徴的です。
ラヴェル自身はこのオペラを「fantasie lyrique(幻想的オペラ)」と名付けています。
またタイトルや物語から考えると「子供向けのオペラ」の印象を持ちますが、オペラを実際に通して観てみるとむしろ大人向けのオペラと感じるかもしれません。
ここではラヴェルのオペラ『子どもと魔法』のあらすじを紹介したいと思います。
主な登場人物
子供
母親
肘掛椅子/安楽椅子/置時計
ティーポット/中国茶碗
火/羊飼い/お姫さま
小さな老人/猫
木/ウグイス/トンボ/コウモリ
リス/カエル など
『子どもと魔法』の簡単なあらすじ
時間のない方のための簡単な「30秒あらすじ」
登場する人間は子供とその母親だけで、残りは猫、火、椅子など幻想的なキャラクターが登場します。
主役は聞き分けの悪い子供(6,7歳)です。
子供はモノに八つ当たりをして、モノを壊したりします。
この「モノ」が「幻想的なキャラクター」に変身します。
この子供が「幻想的なキャラクター」との出会いを通して、人間として成長していきます。
そして最後に「優しさ」を覚え、皆の愛に包まれる中「ママ...」と言葉を発し、オペラは終わります。
『子どもと魔法』のあらすじ
子供がモノに八つ当たりをする
子供と母親
子供は宿題にやる気が起きない。
そこに母親が登場し「宿題をしない子は、罰としておやつは"乾いたパン"と"砂糖抜きのお茶"よ。」と言い去っていく。
子供は「僕は悪い子さ!」と叫び、以下のような八つ当たりをする。
・ティーポットを割る
・ペットのリスを突き刺す
・猫のしっぽを引っ張る
・暖炉の火をかき回す
・壁紙、本を破る
・置時計の振り子を引っこ抜く
※これらの者たちが、子供の前に化けて次々と出てくる。
「椅子、時計、ポット」が子供の前に登場
椅子の嘆き
2つの椅子が出てきて
「やっとあの乱暴な子がいなくなった。」
「あの子は、もう嫌だ」
と嘆く。
置時計の鐘が止まらない
置時計が
「振り子が外されて、鐘が止まらない!」
「あの子供がいなかったら、こんなことには...」
と登場する。
子供は、時計が動いていることを怖がる。
「オペラの幕開けから、置時計のシーンまで」
ティーポットと中国茶碗のボクシング
ティーポットがシャドーボクシングをしながら子供を非難する。
中国茶碗は、金色の尖った先で子供を指さしながらそれに加わる。
二人は踊りながら退場する。
「火、羊飼い、お姫様、老人、猫」が子供の前に登場
火が子供を怖がらせる
火が登場し、
「悪い子は焼き殺すよ!」
と言い、消えていく。
羊飼いの嘆き
辺りが暗くなり夜になると、破れた壁紙から羊飼いたちが登場する。
そして、
「あの子にバラバラにされてしまった。」
「さようなら、みんな」
と嘆く。
お姫さまの本の続きが消えてしまった。
破れた本から、お姫さまが登場し
「あなたが本を破ったのね。」
「これで初恋の人に会えなくなったわ。」
「本の続きはどうなるの...助けて!!」
と叫び消えていく。
子供は本の続きのページを探すが見つからない。
そして、教科書を見つけると「こんなのつまらない!」と教科書を蹴飛ばす。
小さな老人、猫
すると教科書から小さな老人が登場し、でたらめな算数の問題を次々と出す。
老人たちが狂ったように踊り出すと、それにつられて子供は目が回る。
子供がよろけて座ったところに、猫が2匹現れる。
猫はニャーニャー泣きながら、庭へ出ていく。
「庭の動物、植物たち」が子供の前に登場
子供が庭に出ると、動物・植物が登場する。
木が「お前にナイフで傷つけられたケガが痛い...」と唸り、
トンボが「恋人は網で捕まったしまった。」と嘆き
コウモリが「妻を返して!」と叫ぶ。
最後にリスとカエルが登場する。
リスはカエルに「籠に気をつけろ。」と忠告する。
子供が「寂しさ」を感じ出す。
そしてリスは
「この瞳に何が映っていたか知っている?」
「自由な空、風、自由な仲間たちさ。」
と歌う。
動物や植物たちは、次第に幸せそうに寄り添っていく。
子供は「僕だけが独りぼっちだ。」「ママ!」と叫ぶ。
子供が「リスのケガの手当て」をする
そのとき、動物たちが一斉に「あ、あの悪い子だ!」と子供を襲い出す。
そして動物たちの喧嘩に巻き込まれて、リスが怪我をする。
子供が「リスのケガの手当て」をする。
動物たちは子供がした行動に驚く。
一方、子供も怪我をしている。
動物たちは「子供を救うためにママのもとへ運ぼう!」と決意する。
動物たちは
「あの子は賢くて良い子だ。」
「ケガの手当てをしてくれた。」
「本当に優しい子だ。」
と歌う。
最後に子供が目を覚まし「ママ!」と叫んだところで、オペラは終わる。
「子供が傷の手当てをするシーンからラストまで。」
「子どもと魔法」の作曲に至るまで
台本を書いたシドニー=ガブリエル・コレットは、パリ・オペラ座より「子供のためのバレエ作品」を依頼されました。
そのため「子どもと魔法」は、台本ありきでスタートしました。
コレットは1916年に台本を完成させます。
まず最初にポール・デュカスに作曲依頼が届きますが、デュカスはそれを断ります。
そして次に候補に挙がったのがラヴェルでした。
第一次世界大戦を経ての完成
ちょうどその頃、時代は第一次世界大戦(1914-)中でした。
ラヴェルは戦地に赴いていたため、台本を手にするのはしばらく後になります。
さらにラヴェルの戦争での傷は深く、戦後もすぐには作品は完成されません。
「子どもと魔法」は、1925年にようやく当初のパリ・オペラ座からモンテ・カルロ歌劇場に移り上演されることとなります。
「子どもと魔法」にはラヴェルの第一次世界大戦での経験も表現されているのかもしれません。
ラヴェル『子どもと魔法』の録音
2013年、サイトウ・キネン・フェスティバル松本でのライブ録音です。
このアルバムは、第58回グラミー賞(クラシック部門「ベスト・オペラ・レコーディング」)を受賞しました。
小澤征爾さんだけでなく、日本を代表するオーケストラ、サイトウ・キネン・オーケストラとしても初のグラミー賞受賞となりました。
小澤さんがパリのオペラ座で初めて指揮をしたオペラで、その思い入れもとても強い作品です。
演奏の美しさはもちろんのこと、音質も良好です。
【キャスト等】
子供:イザベル・レナード
肘掛椅子、木:ポール・ガイ
母親、中国茶碗、とんぼ:イヴォンヌ・ネフ
火、お姫様、うぐいす:アナ・クリスティ
雌猫、りす:マリー・ルノルマン
大時計、雄猫:エリオット・マドア
サイトウ・キネン・オーケストラ
指揮:小澤征爾
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