項目 | データ |
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初演 | 1892年2月16日ウィーン宮廷歌劇場(ドイツ語) |
原作 | ゲーテ『若きウェルテルの悩み』 |
台本 | エドゥアール・ブロー、ポール・ミリエ、ジョルジュ・アルトマン |
演奏時間 | 2時間20分 |
「ウェルテル(Werther)」は1893年に初演されたマスネを代表するオペラで、同じく彼の代表作「マノン」と共に今日でも世界中で上演され続けています。
2時間半弱のオペラで全4幕で構成されています。
ここでは「ウェルテル」の解説とあらすじを紹介したいと思います。
原作はゲーテの実体験による小説
このオペラの原作はゲーテが1774年に発表した小説「若きウェルテルの悩み(Die Leiden des jungen Werthers)」です。
この小説はゲーテの実体験をもとにしています。
ゲーテの失恋体験
大学で法律の勉強を終えた23歳のゲーテは、法律事務所の見習いとしてドイツのヴェッツラーに移り住みます。
そこで出会ったのが、シャルロッテでした。
ゲーテとシャルロッテは恋に落ちましたが、シャルロッテには婚約者が既に存在し、結局ゲーテはシャルロッテを諦めてフランクフルトへ帰ることとなりました。
友人の死
フランクフルトへ帰ったゲーテですが、シャルロッテのことが忘れられません。
そんな中、ゲーテのもとへ悲報が届きます。
ヴェッツラー時代の友人のイェルーザレムが失恋が原因でピストル自殺をしたという知らせです。
この自分自身の失恋と友人の死をもとに描かれたのが「若きウェルテルの悩み」なのです。
ちなみにゲーテは60歳の時にシャルロッテと再会を果たしています。
原作とオペラの違い
原作とオペラではストーリーや設定が幾分か異なっています。
ウェルテルの最期
原作ではウェルテルはピストル自殺をした後、翌日の朝までそのままでいます。
翌日最初に発見したのは召使いでした。
しかしオペラでは死の直前にシャルロッテが駆けつけて最後の愛を交わします。
ウェルテルの職業
原作ではウェルテルは法律家で、法律の仕事で街を訪れた際にシャルロッテと出会います。
これはゲーテの実像とピッタリと重なります。
しかしオペラではウェルテルとシャルロッテは、いとこの設定になっています。
ウェルテルのあらすじ
56小説の短い前奏曲を経て幕が上がります。
第1幕:法務官の家
1幕の舞台は法務官(シャルロッテの父)の家です。
法務官と子供たちの歌の練習
法務官と子供たちがクリスマスの歌の練習をしています。
子供たちが大声で雑に歌を歌います。
しかし「シャルロッテも向こうで聴いているよ」と怒られると、突然美しい歌で歌い出します。
法務官と友人による立ち話
法務官の友人のヨハンとシュミットが登場します。
そこで今夜の舞踏会の話題が話されます。
・シャルロッテとウェルテルも舞踏会に出席すること
・ウェルテルは好青年だが少し暗いこと
・シャルロッテの婚約者のアルベールは仕事で長期出張中であること
などが話題に出てきます。
ウェルテルの登場
ウェルテルが登場し美しいアリオーゾを歌ったところで、シャルロッテも現れます。
シャルロッテは母の代わりに面倒を見ている弟や妹たちと抱き合い、その様子を誇らしげに父(法務官)も眺めます。
ウェルテルは子供たちの一人を抱き上げ挨拶し、家族を面倒見るシャルロッテの優しさにも心を奪われます。
しばらくし、ウェルテルとシャルロッテは舞踏会へ出かけていきます。
シャルロッテの婚約者の帰還
そこにシャルロッテの婚約者のアルベールが6カ月ぶりに仕事先から帰ってきます。
シャルロッテの妹ゾフィー(15歳)と抱き合い、皆を驚かせるために帰ることは知らせなかったと言います。
ゾフィーはアルベールに
・シャルロッテは今日に限って外出していること
・皆は結婚準備で忙しくいしていること
を伝えます。
それを聴いたアルベールは愛の歌を美しく歌いあげます。
シャルロッテとウェルテルが舞踏会から帰ってくる
舞踏会が終わり、シャルロッテとウェルテルが帰ってきます。
ウェルテルはシャルロッテを想う心を情熱的に歌い上げますが、シャルロッテは冷静さを失いません。
シャルロッテは
・自分には家族を支えなければいけない役目があこと
・そうでありながらも母がいなくて寂しい思いをしていること
を語ります。
それでも愛を語るウェルテルにシャルロッテが心を奪われそうになった時に、婚約者アルベールが帰ってきたことが知らされます。
婚約者の存在を知ったウェルテルが、悲痛な想いを叫ぶ
ウェルテルはシャルロッテに婚約者がいたことを初めて知ります。
シャルロッテが家の中に去ったとに、ウェルテルが絶望的な想いを叫び1幕は終わります。
第2幕:街の広場
第2幕には菩提樹という標題が付けられており、舞台は街の広場です。
法務官の友人のヨハンとシュミットが酒を交わし、酒の歌を歌う場面で幕は上がります。
結婚後のシャルロッテとアルベールの登場
結婚し既に3か月が過ぎたシャルロッテとアルベールが登場します。
お互い良き妻と夫であることを確認し、二人は聖堂へ向かいます。
ウェルテルによる苦悩に満ちたアリア
その様子を悲痛な想いで見ていたウェルテルが登場し、苦悩に満ちたアリアを歌いあげます。
このシーンはオペラの中でもドラマティックなシーンの一つで、聴きどころです。
ウェルテルとアルベールの友情
そこへ聖堂から帰ってきたアルベールが現れます。
アルベールはウェルテルがシャルロッテを愛していることに気付いています。
妻の貞節を信じているアルベールに対し、ウェルテルは自分の中にあるのは友情だと答えます。
そこへ何も知らないシャルロッテの妹ゾフィーが登場し、楽し気に歌を歌います。
歌を聴いたウェルテルは、ますます苦悩の表情を浮かべます。
アルベールはウェルテルに「ゾフィーと結婚してはどうか」と勧めますが、当然乗り気にはなれません。
ゾフィーはウェルテルとダンスの約束をし、アルベールと共にこの場から去ります。
ウェルテルとシャルロッテの苦悩の愛
一人になったウェルテルの眼の先に、聖堂から出てたシャルロッテが現れます。
ウェルテルはシャルロッテに情熱的に語りますが、
シャルロッテは、「アルベールは私を愛している」と答えます。
ウェルテルは、「あなたを愛さない人がいるであろうか」と返答します。
シャルロッテは「私のもとからさってくれ」と頼みますが、ウェルテルは強く断ります。
二人はクリスマスに会うことを約束し、ウェルテルは去っていきます。
第3幕:クリスマス
第3幕は「シャルロッテとウェルテル」の標題が付けられており、二人が再会するクリスマス・イヴが舞台です。
シャルロッテの手紙のアリア
自宅の書斎でシャルロッテは、ウェルテルからの手紙を前に苦しんでいます。
何通も読んでいるうちに、ウェルテルが自殺をほのめかす手紙を手にします。
激しく動揺しているところに、妹のゾフィーが登場します。
姉を励ますゾフィー
姉(シャルロッテ)が動揺している原因がウェルテルだと気付いていたゾフィーは、苦しみを二人で分かち合おうとします。
アルベールが留守の中、姉を一人にさせられないと感じたゾフィーは、実家でクリスマスを過ごそうと姉を誘います。
「一人にさせて」と頼んだシャルロッテでしたが、最後にはうなずき、ゾフィー(妹)を強く抱きしめます。
そしてゾフィーが去った後に、悲痛な想いを歌いあげます。
ウェルテルとの再会
そこにウェルテルが現れます。
冷静さを取り戻したシャルロッテはウェルテルと昔の思い出を語り合います。
ウェルテルがテノール屈指の名アリア「Pourquoi me reveiller」を歌いあげたところで、オーケストラが劇的になり、シャルロッテは感情を抑え切れなくなります。
「Pourquoi me reveiller」
ウェルテルは愛を訴えますが、シャルロッテは妻の立場を必死に守り抜こうとします。
しかし最後にはウェルテルの胸にシャルロッテは抱かれます。
ここで我に返ったシャルロッテは「二度と会わない」と言い残し、その場を立ち去ります。
ウェルテルの死の決意
ウェルテルはシャルロッテを何度も呼びますが、返事はありません。
絶望の中、ウェルテルは死を決意し、部屋を出ていきます。
そこへアルベールが登場します。
動揺するシャルロッテのもとに、ウェルテルの手紙を預かった召使いが現れます。
そこには
「遠くへ旅に出ます。ピストルを貸してください」
と書かれていました。
アルベールの命により、シャルロッテは召使いにピストルを渡します。
死を予感したシャルロッテは、召使いの後を急いで追い幕は閉じます。
第4幕:ウェルテルの死
長い間奏曲を経て、舞台はウェルテルの家となります。
瀕死のウェルテル
幕が上がると、ピストル自殺をし既に瀕死の状態のウェルテルが倒れています。
そこにシャルロッテがやってきます。
ウェルテルはシャルロッテのもとで死ねることは幸せだと言います。
そのときシャルロッテは初めて「愛している」とウェルテルに告白します。
二人は抱き合い、愛を確かめ合います。
ウェルテルは遠くの子供たちの歌声に耳を傾け、シャルロッテのもとで息を引き取りオペラは終わります。
マスネ「ウェルテル」の映像
2010年パリ、バスティーユ歌劇場でのライブ映像です。
カウフマンの鬼気迫る演技と歌唱は必見で、舞台はまるで映画のようです。
相手役のコッシュも美しい歌声を響かせています。
【キャスト等】
ウェルテル:ヨナス・カウフマン
シャルロット:ソフィー・コッシュ
アルベール:リュドヴィク・テジエ
ソフィー:アンヌ=カトリーヌ・ジレ
法務官:アラン・ヴェルヌ
シュミット:アンドレアス・ジャッジ
ヨハン:クリスチャン・トレギエ
ブリュールマン:アレクサンドル・デュアメル
ケートヒェン:オリヴィア・ドレ
オー・ド・セーヌ児童合唱団
パリ・オペラ座管弦楽団&合唱団
指揮:ミシェル・プラッソン
演出:ブノワ・ジャコ
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