Parsifalパルジファル
初演1882年7月26日(バイロイト祝祭劇場)
台本リヒャルト・ワーグナー
演奏時間4時間前後

『パルジファル』(Parsifal)は、リヒャルト・ワーグナー(Richard Wagner/1813年-1883年)が作曲した最後の楽劇(オペラ)です。

着想から完成までに約40年がかかった作品で、キリスト教の救済思想が強く感じられる作品です。
その作品性からか、初演では「全幕通して拍手ナシ」で上演されました。

 ワーグナーは「音楽の途中で拍手をしないように」と頼んだそうです。それが「全幕通して拍手禁止」と間違って伝わったようです。
 その名残でバイロイト等では「1幕後に拍手をしない慣習」がありましたが、それもなくなってきています。

『パルジファル』の台本は、ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハの叙事詩『パルチヴァール』から着想を得ています。
『パルチヴァール』では、白鳥の騎士ローエングリンについても書かれており、この叙事詩はワーグナーの『ローエングリン』にも影響を与えたと言えるでしょう。

またこの叙事詩の作者ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハワーグナーの『タンホイザー』では登場人物(主人公の親友)のモデルとして同名で描かれています。

ここでは、そんなワーグナー『パルジファル』のあらすじを紹介したいと思います。

『パルジファル』:簡単なあらすじ

時間のない方のための簡単な「30秒あらすじ」
【中世のスペイン】
聖杯城主アムフォルタスは魔術師クリングゾルが仕組む誘惑に負け、聖槍を奪われ、その聖槍で腹を刺されます。

 聖槍とは「十字架にかけられたキリスト」の脇腹を刺した槍のことです。
 聖杯は、その十字架で刺された傷の血を受けた杯です。聖杯城では、その「聖杯と聖槍」を守っています。(槍は奪われた)

「アムフォルタスの傷」は儀式の度に痛み、彼はそれに苦悩します。

 その儀式がないと、聖杯城は存続することができません。

アムフォルタスの傷を癒せるのは「純粋な愚か者」のみです。
この物語はパルジファルが「純粋な愚か者」として登場し、アムフォルタスの傷を癒し、聖槍を取り戻す物語です。

第1幕:『パルジファル』あらすじ

王は「不治の傷」に苦しんでいる

中世スペイン:「モンサルヴァートの聖杯城」近くの森
グルネマンツ(騎士団の長老)らのもとに、二人の騎士が現れ「アムフォルタス王が傷の治療のために、近くの湖を訪れる」と連絡が入ります。

 アムフォルタスは「不治の傷に苦しんでいます。」

そこにクンドリが現れ、「王のために、はるばるアラビアから薬を持ってきた」と語ります。
王の一行が現れると、一行はその薬を受け取り湖に向かいます。

 この物語では「聖杯城側(アムフォルタス王)」と「魔術師の城側(クリングゾル)」に分かれます。
クンドリは普段は敬虔ですが、魔法をかけられると「誘惑する女」に変身する、両側の人間です。

王の傷を治せるのは「純粋な愚か者」だけ

グルネマンツは「事の経緯」を以下のように語ります。


1.先代の王が「聖杯と聖槍」を天より授かって、それらを守る城(聖杯城)を建てた。
2.その後「王座」を息子アムフォルタス(今の王)に譲った。
3.邪悪なクリングゾルが「魔性の美女」を使って、王を誘惑した。
4.王は誘惑にはまり、聖槍を奪われ、その槍で腹を刺された。
5.王は不治の傷に苦しんでいる。それを癒せるのは「純粋な愚か者」だと神託があった。


「純粋な愚か者=パルジファル」と期待され、聖杯城へ行く

そのとき、傷ついた白鳥が落ちてきます。
そして「白鳥を射た若者=パルジファル」が連れてこられます。

パルジファルは神聖な森で白鳥を射たのにもかかわらず、罪悪感を感じていません。
また「どこから来たか?」「なんで来たか?」「父は誰か?」「自分が誰なのか?」、何も答えることができません。

グルネマンツは「純粋な愚か者=パルジファル」ではないかと期待し、パルジファルを聖杯城へ連れていきます。

儀式の中で、パルジファルは何もできない

聖杯城

「Zum letzten Liebesmahle」

 舞台が聖杯城に変わったときに、合唱(聖杯の騎士たち)によって歌われる。

聖杯の前で、儀式がはじまろうとしています。
先王が王に「聖杯の覆いをとる」ことを命じます。
王は「聖杯の光」により命が延びますが、「不治の傷」で苦しみだします。(Nein lasst ihn unenthüllt)

そこに「純粋な愚か者を待つのだ」という言葉も響きます。
しかし、パルジファルは何がおこなわれているか全く理解できていません。

失望したグルネマンツは、パルジファルを外に突き飛ばします。

第2幕:『パルジファル』あらすじ

クンドリがパルジファルを「誘惑」しに行く

魔術師クリングゾルの城

魔術師クリングゾルはクンドリに魔法をかけて「パルジファルを誘惑してこい!」と命じます。

 クリングゾルは「聖杯の騎士団」になりたがっていましたが、不純さゆえに拒絶されます。その恨みで、彼は騎士団たちを誘惑し堕落させています。

パルジファルが現れると、辺りは美しい庭に変わり、美しい魔女たちが彼を誘惑し始めます。
パルジファルが嫌気がさして帰ろうとしたときに、クンドリが「パルジファル!」と呼びます。

パルジファルが「誘惑」を退ける

パルジファルは「自分の名前」を久しぶりに呼ばれたことで、自分の正体を思い出します。
そして、母親を一人置いて出ていったことを後悔します。

 パルジファルはこのシーンまで「自分が誰なのか」もわかっていません。

クンドリはパルジファルを慰めると言い、キスをします。

 これは「パルジファルを堕落させる」ための誘惑のキスです。

しかし、このキスでパルジファルは「王の苦悩」を思い出します。(Amfortas! Die Wunde!)
そして、「キスが誘惑」であることを悟り、クンドリを退けます。

「Amfortas! Die Wunde!」

パルジファルが「聖槍」を奪還する

それを見ていた魔術師クリングゾルは、聖槍を投げてパルジファルを殺そうとします。
しかし、「聖槍はパルジファルの頭上でピタリと停止」してしまいます。

パルジファルがその聖槍で十字を切ると「クリングゾルの城」は崩れ落ち、辺りは元の景色に戻ります。
クンドリもその場に倒れると、パルジファルは「また会うはずです。」と語りかけ去っていきます。

第3幕:『パルジファル』あらすじ

数年後:パルジファルは「自分の役目」を思い出す

数年後の聖金曜日:「モンサルヴァートの聖杯城」近くの森
グルネマンツ(騎士団の長老)は倒れているクンドリを見つけ、介抱をしています。

そこにパルジファルが現れます。
グルネマンツは「パルジファルが聖槍を持っている」ことに気づき、喜びを爆発させます。

グルネマンツは
「王の傷の痛みはさらに酷くなっています。」
「先王も亡くなってしまいました。」
と語ります。

パルジファルは
「私は救いのために選ばれたのですが、迷っているうちに何もかも忘れてしまっていました。」
「王のもとへ案内してくれませんか。」
と頼みます。

パルジファルは、クンドリとグルネマンツの手を借りて洗礼を受けます。
パルジファルがお返しにクンドリの頭に聖水を注ぐと、彼女は涙を流します。
森は呪いから解放され、「聖金曜日の奇跡だ!」と3人は喜びます。

 聖金曜日は受難日とも呼ばれます。復活祭直前の金曜日のことで、キリストの受難と十字架上の死を記念する日です。

王が傷に苦しんでいる

モンサルヴァートの聖杯城の広間
先王の葬儀がひらかれようとしています。
王は「私に死を与えてください。」と、亡き父を前に苦しんでいます。(Mein Vater!)
そして儀式をすることをためらっています。

 儀式をする(聖杯の覆いをとる)と、傷に苦しむことになる

「Mein Vater!」

王の傷が治る

そこにパルジファルが入ってきます。
パルジファルの持つ聖槍が「王の傷口」に触れると、傷はたちまち消え去ります。

王は輝きを取り戻し、パルジファルは「聖槍」を大きく掲げます。

パルジファルが「聖杯の覆い」をとり儀式をはじめると、聖杯は光り輝きだします。
そこに白い鳩が降りてきて、パルジファルの周りを飛びます。

クンドリは穏やかに倒れ、そのまま息絶えます。
皆は「救済の奇跡」を称え、パルジファルが聖杯を掲げて祝福を与える中で物語は終わります。

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