項目データ
作曲1842年
初演1843年
原作ハインリヒ・ハイネ『フォン・シュナーベレヴォプスキー氏の回想記』など
台本リヒャルト・ワーグナー
演奏時間2時間30分

リヒャルト・ワーグナー『さまよえるオランダ人(Der fliegende Holländer)』は、彼がまだ20代後半の頃に作曲された作品です。
初期を代表する作品で、ワーグナー自身が1839年に航路で体験した嵐が関係しているとも言われています。

 イギリスにはフライング・ダッチマン(Flying Dutchman)という幽霊船の伝説があります。
その船には呪われた船長(オランダ人)が乗っていて、彼は海路をたった一人で永遠にさまよい続けています。
ワーグナーはこの伝説をもとにオペラを作りました。

初演は3幕形式で上演されましたが、ワーグナーは全曲を通して演奏することを望んだそうです。
現在では、1幕形式で上演されることが多くなっています。

ワーグナーは、1843年2月にドレスデン国立歌劇場管弦楽団の指揮者に就任しました。
初演はその1ヵ月前の1月2日にドレスデン宮廷歌劇場でおこなわれましたが、失敗に終わりました。
ただ約20年後の1865年に同劇場で同オペラを演奏した際は、無事成功したそうです。

ここでは、そんなワーグナー『さまよえるオランダ人』のあらすじを紹介したいと思います。

登場人物

登場人物備考
オランダ人(バリトン)悪魔に呪われており、海をさまよっている。
ダーラント船長(バス)ノルウェー人の貿易船の船長
ゼンタ(ソプラノ)ダーラントの娘
エリック(テノール)ゼンタの恋人

『さまよえるオランダ人』の簡単なあらすじ

時間のない方のための「簡単なあらすじ」

オランダ人は悪魔に呪われており、幽霊船で海をさまよっています。
彼の呪いは、「永遠の愛」を誓う女性に巡り合うことで解かれます。
オランダ人は、停泊先で「オランダ人の伝説」に惹かれているゼンタと出会います。

二人は結婚の約束を交わしますが、オランダ人は「お前を破滅させたくはない。」とゼンタに別れを告げます。

別れを告げたオランダ人が出航すると、ゼンタは制止を振り切り「オランダ人に誠を誓って」海に身を投げます。
すると幽霊船の呪いは解けます。

浄化され抱き合うオランダ人とゼンタが水面から現れ、天に昇って行ったところでオペラは終わります

第1幕:『さまよえるオランダ人』のあらすじ

第1場:ダーラントの船の隣に「幽霊船」が現れる

ノルウェーの海岸

 ダーラント船長:ノルウェー人の貿易船の船長。貿易を終えた帰りに嵐に遭遇し、帰路の途中で錨を下ろします。

海は嵐で激しく荒れています。
航海中のダーラントは難を逃れ、船を海岸に止めます。

ダーラントは「早く帰って、娘に会いたい」と嘆き、この地で嵐が収まるのを待つことにします。
そして乗組員を休ませ、自らも船室で休みます。

当直で残された舵取りは、恋人への歌を歌って眠気を覚まそうとします。
しかし、やがて航海の疲れで眠ってしまいます。

すると「赤い帆の幽霊船」が突然現れ、海岸に近づくとダーラントの船の隣に停まります。
恐ろしい物音に舵取りは一度目を覚ましますが、再び眠りにつきます。

第2場:呪われたオランダ人の絶望の嘆き

幽霊船からオランダ人が現れ上陸し、呪われた自分の運命を独白します。(Die Frist ist um)
そして「唯一の希望は、地上に終末の日が訪れることだ。」と絶望します。

 オランダ人は悪魔に呪われており、永遠に海をさまよう罰を受けています。
彼は7年に一度だけ上陸を許されており、そのときに"永遠の愛"を誓う女性に巡り合えれば、呪いが解かれます。
彼はこれまでに何度もこれに失敗して、未だにさまよい続けています。

「Die Frist ist um」

第3場:オランダ人がダーラントに「娘をくれ」と要求

ダーラントは目を覚ますと、隣に異様な船があることに気づき驚きます。
そして陸にオランダ人を見つけると、彼に話しかけます。

オランダ人は「私は故郷に憧れている。」と語り、「一夜でいいから、あなたの家を宿として貸してくれないか。」と尋ねます。
さらに「あなたの娘を私の妻にください!」と頼み込みます。
オランダ人は、その対価として「たくさんの財宝」をダーラントに見せます。

ダーラントはお金に目がくらみ、その要求を受け入れてしまいます。

 ダーラントは、オランダ人を"ただのお金持ち"だと思っています。
"オランダ人が呪われている"事実は、知る由もありません。

嵐は収まり、2隻の船はダーラントの故郷へと向かいます。

第2幕:『さまよえるオランダ人』のあらすじ

第1場:ゼンタが「オランダ人の伝説」を歌い上げる

ダーラント家の館

 ゼンタ:ダーラント船長の娘

村の娘たちが糸を紡ぎながら、賑やかに歌っています。
そんな中、ゼンタは仕事がはかどらず、壁にかかった「さまよえるオランダ人」の肖像画を一人で見つめています。

ゼンタは「オランダ人の伝説」を皆に歌いかけ(ゼンタのバラード)、突然興奮すると「私の力であなたを救う!」と絶叫します。
そこにゼンタの恋人エリックが現れ、「ダーラントたちが帰ってきた」ことを知らせます。

「ゼンタのバラード」

第2場:ゼンタと恋人エリックの2重唱

 エリック:ゼンタの恋人

娘たちが広間を出ていく中、恋人エリックはゼンタを引き留めます。
エリックは「絵の中の男に夢中になって、あなたは僕を苦しめる。」と嘆きますが、ゼンタは彼に同情しません。

エリックは、続けて「自分の見た夢」を歌いだします。

 夢は
1.ダーラントが「壁の絵にそっくりな男」を連れて来て
2.その男とゼンタがキスをして、海に逃げていく
という内容です。

ゼンタはそれを聞いて異常に喜び「彼に会って、一緒に破滅しなければいけない!」と叫びます。
エリックは「おれの夢は正夢だったのか!」と絶望し、走り去っていきます。

第3場:オランダ人とゼンタが「結婚」の約束をする

ダーラントがオランダ人を連れて、ゼンタのもとに現れます。
ゼンタは「壁の絵の人物」が目の前に現れたことに驚きます。

ダーラントはゼンタに「受け入れてくれるなら、この方は明日からお前の花婿だ。」と紹介します。
ダーラントはゼンタに財宝も見せますが、ゼンタの目には全く入ってきません。

ダーラントは二人きりにするために、部屋から立ち去ります。

二人きりになったオランダ人とゼンタは、運命的に惹かれ合います。

オランダ人は「これは愛なのか!?この天使が私に救いを与えてくれれば。」と歌い上げます。(Wie aus der Ferne längst vergang'ner Zeiten/はるか遠い昔の世から)
それにゼンタが「この熱い想い。救いをあなたに差し上げます。」と歌い返します。

「Wie aus der Ferne längst vergang'ner Zeiten」

オランダ人は「残酷な運命」が待ち受けていることを警告しますが、ゼンタの意思は変わることはありません。

二人が誠を誓いあったところで、ダーラントが戻ってきます。
そして二人は結婚の約束を交わします。

第3幕:『さまよえるオランダ人』のあらすじ

第1場:水夫たちが幽霊船におびえる

夜、ダーラントの船と幽霊船が隣り合わせで停まっている

ダーラントの船では水夫たちが陽気に騒ぎ、それに娘たちも加わってきます。
そして食料を分け与えようと「幽霊船」に声をかけますが、返事は帰ってきません。

その時、幽霊船に突然炎がかかり、幽霊船の水夫たちが歌いだします。
ダーラントの水夫たちは恐怖をおぼえ、十字を切って逃げていきます。

第2場

オランダ人がゼンタに別れを告げて出航する

そこにゼンタが館から現れ、それを恋人エリックが追ってきます。

エリックは「ゼンタがオランダ人との結婚を承諾した」ことを非難し、彼女が幽霊船へ向かうのを引き留めます。
そして「あなたはあの頃のことを思い出したくないのか?」と愛を歌いあげます。(Willst jenes Tags)

そこに二人の会話を聞いていたオランダ人が現れます。
オランダ人は「これまでのように今回も愛を手に入れることはできなかった」と思い、「お前を破滅させたくはない。」とゼンタに別れを告げます。
ゼンタは「私は誓いを守ります。待ってください!」と叫びます。

しかしオランダ人は聞き入れず、「私は"さまよえるオランダ人だ"」と初めて身分を明かし、船に乗って出航します。

ゼンタが海に身を投げ、呪いが解ける

ゼンタは皆の制止を振り切って、港の岩に登り、「オランダ人に誠を誓って」海に身を投げます。
するとゼンタの犠牲により、幽霊船の呪いは解けます。
幽霊船はオランダ人と共に沈んでいきます。

浄化され抱き合うオランダ人とゼンタが水面から現れ、天に昇って行ったところで幕は下ります。

ワーグナー『さまよえるオランダ人』の映像

※日本語字幕なし

こちらは、2013年チューリッヒ歌劇場でのライブ映像が収録されています。
現代最高のバリトン歌手と評されるターフェルの『オランダ人』は必聴です。

【キャスト等】
オランダ人:ブリン・ターフェル
ゼンタ:アニヤ・カンペ
ダーラント:マッティ・サルミネン
エリック:マルコ・イェンチュ
マリー:リリアーナ・ニキテアヌ
など

チューリッヒ歌劇場管弦楽団&合唱団
指揮:アラン・アルティノグル
演出:アンドレアス・ホモキ

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