項目 | データ |
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作曲年 | 1807-1808年 |
初演 | 1808年12月22日 |
献呈 | ロプコヴィッツ侯爵、ラズモフスキー侯爵 |
演奏時間 | 35分程度 |
ベートーヴェンの交響曲第5番は、その名の通りベートーヴェンの作曲した5番目の交響曲です。
日本では「運命」の名称で親しまれており、クラシック音楽の代名詞と言っても過言ではないでしょう。
この頃のベートーヴェンの聴覚はかなり悪化しており、会話もままならぬ状態でした。
しかし一方で作曲家としての地位は確立され、経済的にも安定した時期で、生きる力はみなぎっていました。
交響曲第5番「運命」は、ベートーヴェンの創作意欲が最も高かった時期の作品の一つです。
1808年:交響曲第6番『田園』
1808年:合唱幻想曲
1809年:ピアノ協奏曲第5番『皇帝』
1810年:エリーゼのために
1810年:ピアノソナタ第26番『告別』
などが挙げられます。
ここではベートーヴェンの交響曲第5番の解説をするとともに、名盤を紹介したいと思います。
・完成までに5年もの月日を要した大作である
・ベートーヴェンの恋愛が、「運命」の完成を長引かせたと言われている
・「運命」は通称で、正式なタイトルではない
・ベートーヴェンがハイドンの形式を守った最後の交響曲である
・ピッコロ・コントラファゴット・トロンボーンが初めて使われた交響曲である
ベートーヴェン「交響曲第5番(運命)」の演奏
[00:01]第1楽章:Allegro con brio ハ短調 4分の2拍子[07:25]第2楽章:Andante con moto 変イ長調 8分の3拍子
[15:58]第3楽章:Scherzo: Allegro ハ短調 4分の3拍子
[20:38]第4楽章:Allegro - Presto ハ長調 4分の4拍子
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ(Paavo Järvi, 1962年- )
演奏:ブレーメン・ドイツ室内フィルハーモニー管弦楽団(ドイツ・カンマーフィルハーモニー・Die Deutsche Kammerphilharmonie Bremen)
ベートーヴェン「交響曲第5番(運命)」の解説
交響曲第5番「運命」は、1804年に交響曲第3番「英雄」が完成した直後に作曲され始めました。
1808年にオーストリア・ウィーンのアン・デア・ウィーン劇場で初演されるまで、5年もの月日を要した大作です。
初演では、ベートーヴェン自身が指揮を振りました。
ちなみに交響曲第6番「田園」も「運命」と同じ演奏会で初演されています。
「運命」が完成する前に、後から作り始めた交響曲第4番が完成しています。
そのことからも「運命」への強い思いが感じとれます。
好調な恋愛が作曲を長引かせた!?
この他にも「ベートーヴェンの恋愛」が、「運命」の完成を長引かせたのではないかと言われています。
この時期ベートーヴェンは、ヨゼフィーネ・ブルンスヴィック(Josephine Brunsvik、1779年-1821年)と恋愛関係にありました。
ベートーヴェンはヨゼフィーネを「唯一の恋人」と呼ぶほどで、彼の生涯で最も重要な女性です。
恋愛が上手くいき幸せだったベートーヴェンは、「運命」のような劇的で激しい音楽を作曲する気にはならなかったのかもしれません。
デイム伯爵が1804年に死去。
そして1810年にシュタッケルベルク男爵と再婚。
彼女が未亡人の間(1804年から1807年)に、ベートーヴェンと彼女は恋愛関係にありました。
ベートーヴェンとヨゼフィーネの恋愛関係は1807年頃に終止符をうちます。
原因は「身分の違い」でした。
ヨゼフィーネの親族らが、身分の高くないベートーヴェンとの恋愛を大反対したのです。
ヨゼフィーネと別れてから「運命」の作曲ペースは上がり、1808年に作品は完成しました。
運命の由来
「運命」とは通称であり、正式なタイトルではありません。
これはベートーヴェンの弟子であるアントン・シントラーが冒頭の「ジャジャジャジャーン」はどういう意味があるのかと、ベートーヴェンに尋ねたことから始まります。
ベートーヴェンは「運命の扉をたたく音」だと答えたそうです。
ここから「運命」の呼び名が生まれたわけです。
ベートーヴェンの別の弟子であるカール・ツェルニーによると、「鳥のさえずり」が「ジャジャジャジャーン」のきっかけとなったそうです。
この「ジャジャジャジャーン」は運命動機と呼ばれています。
運命動機は変形しながら、すべての楽章に何度も登場します。
運命動機を気にしながら聴いてみるのも面白いでしょう。
ハイドンの形式を守った最後の交響曲
「運命」は、ハイドンの完成させた4楽章から成る交響曲の定型を守った最後の交響曲です。
ハイドンは生涯に104曲の交響曲を作ったことから、「交響曲の父」として親しまれています。
この後の作品になると、ベートーヴェンは「田園」で第5楽章を用いたり、「第九」で合唱を加えたりしています。
新たな楽器の導入
ベートーヴェンは「運命」において、ピッコロ・コントラファゴット・トロンボーンを用いました。
これらの楽器は、交響曲において今まで一度も使われたことのない楽器でした。
ベートーヴェンのこれまでの慣習だけにとらわれない独創性が感じられます。
このことは今後のオーケストラの楽器の編成に大きな影響を与えました。
極寒の初演
初演は1808年12月22日の夜にアン・デア・ウィーン劇場で行われました。
4時間におよぶ長時間のコンサートは前半と後半に別れ、後半の1曲目に「交響曲第5番」が演奏されました。
田園の初演は、前半の1曲目に行われました。
ベートーヴェンの作品が公開されるのは2年半ぶりで、ベートーヴェンにとっても待ちに待ったコンサートでした。
しかしホールは極寒で、演奏者も聴衆も劣悪な環境の中で開催されました。
さらにリハーサルが不十分で、コンサート最後の合唱幻想曲(初演)では曲が途中で止まってしまい演奏し直すという事態になりました。
合唱幻想曲のピアノソロはベートーヴェンが演奏しましたが、難聴のためうまく演奏できなかったそうです。
またこのピアノソロが、ベートーヴェン最後のピアノソロとも言われています。
批判的な反応はあまり見られませんでしたが、このコンサートは失敗に終わったと言われています。
曲の構成
第1楽章:アレグロ・コン・ブリオ
楽曲構造は導入部、第一主題、第二主題、展開部、再現部、コーダと、伝統的なソナタ形式で書かれています。
いきなり「ダダダダーン」という有名な動機で始まり、この動機が重要な主題として繰り返されます。
第1主題はCマイナーで「ダダダダーン」とエネルギッシュで情熱的でしたが、第2主題は対照的にCメジャーで穏やかに演奏されます。
再現部では、第一主題と第二主題が再び登場し、最後のコーダでは「ダダダダーン」と盛り上がり力強く終わります。
第2楽章:アンダンテ・コン・モト
楽章構造は、主題、展開、再現の典型的な三部形式です。
第1楽章の雰囲気とがらりと変わり、穏やかで美しい旋律が演奏されます。
ヴァイオリンとチェロの美しいソロで始まった音楽は、やがてオーケストラ全体に広がります。
楽章が終わりに近づくにつれて、音楽は穏やかになり、静寂に包まれます。
第2楽章は心が安らぐ音楽で、劇的な交響曲第5番の中で重要な役割を果たしています。
第3楽章:スケルツォ:アレグロ
ベートーヴェン以前の第3楽章のほとんどは、メヌエットとトリオで構成されていました。
「ダダダダーン」に似たリズムが、スケルツォのリズムに合わせて演奏されます。
トリオ部分は一転して穏やかな音楽に変わりますが、ベルリオーズはこの部分を「象のダンス」と語ったそうです。
また子どもの頃のシューマンは、コーダについて「とても怖い」と語ったそうです。
交響曲第5番の楽曲全体の見事なバランスに、この第3楽章は欠かせません。
第4楽章:アレグロ
楽曲構造は導入部、第一主題、第二主題、展開部、再現部、コーダと、伝統的なソナタ形式で書かれています。
冒頭から「ドー、ミー、ソー、」と、シンプルで壮大な第1主題が鳴り響き、第2主題では運命の動機を用いたものが演奏されます。
コーダで明るく情熱的に盛り上がり、最後はフェルマータの長い音で終わります。
この終わり方をするのは、ベートーベンの交響曲の中では「運命」だけです。
ベートーヴェン「交響曲第5番(運命)」の名盤
「運命」には数多くの録音が残されています。
演奏の聴き比べをして、お気に入りの演奏を見つけましょう。
「運命」の1枚目のCDを買うのであれば、間違いなくオススメできるCDです。
カラヤン指揮・ベルリン・フィルハーモニーのベートーヴェン交響曲全集が一度に手に入ります。
輸入盤で格安で購入できるだけでなく、音質も素晴らしいです。
カラヤンとベルリンフィルが脂に乗っている時期の作品です。
カラヤンの美学とベルリンフィルの名演が絡み合って、最高のハーモニーを奏でています。
カラヤンらしさが一番感じとれる時期かもしれません。
クラシック初心者の方は、このCDを買って損はないと思います。
ヘルベルト・フォン・カラヤン(Herbert von Karajan/1908年4月5日-1989年7月16日)
オーストリアの指揮者
1955年から1989年までベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の終身指揮者・芸術監督を務める。
ウィーン国立歌劇場の総監督やザルツブルク音楽祭の芸術監督も務めるなど、歴史上最も偉大な指揮者の一人である。
日本には11度も来日しており、日本人には小澤征爾が師事したことでも知られている。
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(Berliner Philharmoniker)
世界を代表するオーケストラの一つで、日本において絶大な人気を誇る。
重厚なドイツ的サウンドを奏でながらも、バラエティに富んだプログラムを演奏し常に世界の最先端をリードしている。
カルロス・クライバー&ウィーン・フィル
40代半ばの脂の乗っているクライバー指揮によるウィーンフィルの演奏です。
巨匠クライバーの交響曲録音デビューとなった記念すべきCDで、こちらの録音は「定番」として長年愛されています。
テンポが速めの「運命」で、引き締まった演奏が魅力的です。
「運命」の他にベートーヴェン「交響曲第7番」が収録されています。
「7番」もスピード感があり、ノリノリの音楽が好きな方にオススメの1枚です。
録音:1974年3月(運命)、1976年1月(7番)ウィーン
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