ミックスボイスというと、何だか魔法のような高音発声法のような気がしますが、決して魔法ではありません。
バランスのとれた発声を意識すれば、自然と近づける発声法です。

しかし「パッサッジョ(喚声点)」から上の音域では、「新しい感覚」を必要とするのも事実です。

「ミックスボイス=高音専門の発声法」と捉われがちですが、最終的にはそうではありません。
ゴールは「低音から高音まで、滑らかに繋がる発声で歌えること」です。
低音と高音は全く別の発声"と捉えずに、一つの流れの中で声をコントロールしていきましょう

日本では「ミックスボイス」の名称が知れ渡っています。
そのため当サイトでも「ミックスボイス」の名称を使っていますが、これは「ミドルボイス」のことで、パッサッジョから上の音域の歌声を指します。

ミックスボイスを地声と裏声の混じった声とするならば、歌は低音から高音まで全てミックスボイスで歌われるべきです。

ここでは、ミックスボイス発声のヒントを紹介します。

  • ミックスボイス獲得には時間がかかる
  • ミックスボイスは、地声と裏声のバランスのとれた声
  • 「インナーマッスルで歌う」「喉頭を操作しないで歌う」が鉄則
  • 「地声に頼らない」で高音を出そう

ミックスボイス獲得は一般的に時間がかかる

「ミックスボイスの出し方はどうすればよいのか?」
高い音を出したいと悩む方たちは、たくさんいらっしゃると思います。

実際に私のボイストレーニングに来る方の多くが「高音の感覚をマスターしたい」「広い音域で歌いたい」「ミックスボイスのコツを知りたい」という目標を持っています。

焦らず忍耐力を持つ

他のページでも書いていますが、ミックスボイスを獲得するには
ある程度の時間がかかります。
早い方でも「練習をはじめて半年〜1年くらいはかかる」と考えたほうがいいでしょう。

焦らずに忍耐力を持つことが大切です
焦って上手くいくケースは少なでしょう。

すぐに高音が出せるようになる人もレアだが存在する

ただし例外的に、すぐに高音が出る方もいます。
私のボイストレーニングを受けた方でも、一回や二回のレッスンで高音が出た方もいます。

しかし、一回のレッスンで高音が出た方も、バランスの良いミックスボイスが出せるわけではありません。

安定してバランスのよい高音を出すためには、ある程度の練習期間は覚悟すべきです。

例外として最初からミックスボイスが楽々出せる人もいます。
生まれながらにして与えられた素晴らしい才能で、羨ましい限りです。

ミックスボイスはバランスのとれた声

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: balance.jpg

そもそもミックスボイスとは何でしょうか?
一言で言うと、「バランスのとれた発声」です。

多くの人は「地声」と「裏声」の両方を出すことができます。
この「地声」と「裏声」のバランスを整えて歌うことが、高音を歌うためには必要です。
音楽的な表現も考えると、高音だけでなく広い音域で歌うためにもバランスの良い発声をすべきです。

ミックスボイスの出し方としては、裏声の筋肉を意識することが特に重要です。
ミックスボイスの出せる方の中には、裏声の筋肉を「歌の拠り所」にすることをコツとしている人も多いと思います。
ミックスボイスの感覚は「裏声に意識を入れつつ地声で歌う」という感覚でも表現できるかもしれません。

理論的には別項で記載していますので、そちらを参考にして下さい。

地声とは?

私がここで話している地声とは「普段の話し声」のことです。
普段の話し声と言っても様々です。

普段、声帯を厚く使い過ぎている人もいます。
反対に、十分に声帯の周りの筋肉を使っていない人もいます。

地声で大切なことは、アウターマッスルを使わずにインナーマッスルで声を出すことです。

地声の筋肉は、普段の会話で使っています。
一度バランスの良い感覚をつかめれば、テクニックは定着しやすいでしょう。

裏声とは?

裏声とは、パーティなどで発する「フーッ」の声です。
この裏声が、歌う上ではとても重要です。

裏声は音程をとる筋肉、つまり「歌う筋肉」です。

裏声を上手に使えるようになるには、人によってはある程度の期間が必要となります。

裏声も地声のときと同様に、インナーマッスルを使うことが大切です。
アウターマッスルを働かせるべきではありません。

2つの実例

ここで2つのパターンの高音を紹介します。

後半は、裏声のみの発声です。
後半の声をベースに声を育てた場合、それを力強い歌唱法へ繋げることは困難です。

力強い発声をしたければ、後半のパターンの発声にならないように、近くに正しい耳を持った人にいてもらうことも大切です。

声を完全にひっくり返さずに地声の要素を入れると、力強く発声できます。

※もちろん裏声を自由に使えるようになることも大切です。

地声の混じった声

C(ド)からHighC(高いド)までの1オクターヴを行き来しています。
こちらがいわゆる地声と裏声の両方の要素を持つ声です。
高音は力強く出すことで、地声よりも大きく豊かに響くようになります。

裏声のみ

こちらの高音は地声の混じっていない、裏声ベースの声です。
男性がこの声を強くしようとしても、歌声は女性的になります。

もちろん柔らかい表現では、この声も有用です。
力強く出すためには、地声の要素をしっかりと入れてあげることが大切です。

「地声の混じった声」と「裏声のみ」は別物と考えてください。

ミックスボイスに苦労する4つのパターン

ミックスボイスは「裏声と地声の筋肉をバランス良く使った発声法」です。
しかし、バランスの良い発声法という表現は、曖昧で想像しにくいものかもしれません。

当ボイストレーニングでの経験もふまえて、ミックスボイス獲得に苦労する理由をパターン別にまとめてみました。
ご自身に当てはめてみて、参考にしてください。

1「ミックスボイスが楽に出ると思っている」

よくあるパターンが、「ミックスボイスは、裏声と同じようにフワッと楽に出る」と思っているパターンです。

ミックスボイスは、裏声と違って声帯がしっかりと閉鎖しています。
地声と同じように閉鎖している感覚があります。

「裏声を力強く出せばミックスボイスになる」という教育法もときどき目にしますが、それでは裏声のままです。

「裏声を強くして地声のように聞かせる発声法」をミックスボイスとするならば、この方法でも出せます。
実際に裏声を力強く出しても、有る程度地声に似た音色にはなります。

稀に裏声を力強く出した感覚で、ミックスを出している人もいます。
そのような方は、裏声をとても大きな声量で出せる場合が多いです。

負担はないが「負荷」はかかる

ミックスボイスは、バランスのとれた発声です。
地声を出している感覚に近い部分もあります。
むしろ地声の感覚はしっかりと残ります

そのため、負担はありませんが、声に「負荷」はかかります
地声と言うと語弊がありますが、正確にはミックスボイスは「歌声」を出している感覚です。

ミックスボイスがバランス良く出せるようになると、負担も少なくなってきます。
しかし、多くの場合はミックスボイスの出来始めは、ある程度の負担はかかってしまいます。

「負担のある発声」を恐れすぎることも問題です。
負担のない理想の発声を求めるあまり、恐る恐る歌ってしまい、必要な筋肉も使えないことが考えられるからです。
様々なアプローチで発声を試してみることも大切です。

2「話し声が弱々しすぎる」

次にミックスボイス獲得で苦労している原因として「話し声が弱々しすぎる」ことも挙げられます。
「リラックス」と「力を抜く」を同じ意味で捉えている場合も当てはまるかもしれません。

喉のリラックスは逆効果の場合も

「喉をリラックスする」ことは正しい ボイストレーニングで「喉をリラックスしましょう。」と言われたことはありますか? それは正しいことですが、目的は「不必要な部分…

話し声が弱々しいと、歌声でも声帯の閉鎖が不十分な可能性があります。

低音域の声帯閉鎖が不十分だと、高音域で声が裏返ってしまいます。
もし裏声の使い方が上手い方であれば、地声の声帯閉鎖をしっかりとするだけで、高音が出るようになる場合もあります。

ハミングで効率よく響く場所を探す

ハミングで力まずに響く場所が見つかれば、それがヒントになるかもしれません。
ただしハミングの練習は難しいので、ボイストレーナーに見てもらうことをオススメします。

間違ったハミングで練習してしまうと、結果的に力みだけを生んでしまうこともあります。

ハミングが鼻で響くように、高音へのヒントは鼻に近い部分にあります。
ただし、鼻詰まりのような「鼻声」とは違います。

また話し声が弱々しい人は、口の中のスペースを充分に確保していないことも考えられます。
リラックスした状態で、充分な口のスペースを確保することが大切です。

3「声が立派すぎる」

三つ目の理由として挙げられるものは「声が立派すぎる」ことです。

声が立派すぎるあまり、歌声ではなく地声(普段の話し声)に頼りすぎてしまうことがあります。

声が立派な方は、一般的な方より声を出すのに大きなエネルギーを必要とします。
軽自動車ではなく、大型トラックを運転しているようなものです。
そのため、発声のバランスを取ることも難しくなります。

ただしバランスの良い発声が出来た場合には、素材が素晴らしい分「極上の声」が生まれるでしょう。

話し声とは違う「歌声」を見つける

声が立派な方が注意すべきことは、自分の声に頼らないことです。
地声(話し声)とは別感覚の「歌声」を見つけましょう。

まずは大きい声で歌うことをやめて、小さいエネルギーでよく響く声の出し方を見つけてください。
その発声法でパッサッジョ付近までいければ素晴らしいことです。
ピアニッシモでよく響く歌声を探してください。

小さい声量でのハミングも効果的です。This is a information alert.

その発声法が見つかれば、その発声で使った筋肉を拠り所として歌ってみてください。
うまくいけば、新しい感覚が見つかるはずです。

これはとても感覚的なものなので、言葉で表現することは難しいです。
自分ひとりでチャレンジし続けるのではなく、ボイストレーナーなどにお手本を出してもらうといいでしょう。
生の歌声を実際に聞いたほうが、ミックスボイス獲得には有利です。

動画や音声でしか聞いたことがないのと、実際にそばで聞いたことがあるのとでは、大きな違いがあります。

話し声とは明らかに違う「声を操作する筋肉」があると思いますので、そこを発見しましょう。
それこそが「歌で必要な筋肉」です。

4 「喉声は解決すべき必須課題」

喉声(のどごえ)は、高音を楽に出すためには解決すべき課題です。
歌の初心者の方でも「最初から喉に無駄な力があまり入っていない」方がいる一方で、バンドなどで歌っている方でも「喉声」の方はいます。

この悪い習慣は、人によっては取り除くことが難しい大きな問題となります。

自分でチェックできる5つのポイント

先ほどはミックスボイス獲得で苦労する内容にはパターンがあることをお話ししました。
人それぞれミックスボイスを出すためにアプローチする方法は異なりますが、すべての人に共通していることもあります。

「すべての人に共通する」ミックスボイス獲得のポイントを次に紹介します。

顎の下は柔らかく

ポイントの一つとしては、顎の下を筋肉を柔らかいプニプニの状態に常に保っておくことです。

これは地声、裏声を単体で練習するときにもチェックすべき重要ポイントです。
発声の用語には様々な言葉が混在していますが、「地声」「裏声」「チェストボイス」「ミドルボイス」「ヘッドボイス」「ミックスボイス」「ファルセット」などすべての発声において顎の下の筋肉は柔らかく保つべきです。

低音域で顎の下に力が入っていると、高音域に入るときにもその力みを受け継いでしまいます。

「低音域では力んでいるけど、高音域になると力みがとれる」という人は、ほとんどいません。
チェストボイスの音域から力まないように注意することが大切です。

またチェストボイスでは力んでいませんが「ミックスボイスの音域になると顎の下が力んでしまう」方も少なくありません。
顎の下の筋肉に頼らず、歌う筋肉で高音へ移行しましょう。

インナーマッスルで歌う

次に大切なことは「アウターマッスルを使わずに、インナーマッスルで歌う」ということです。
これもミックスボイス限定ではなく、すべての発声においての注意点です。

アウターマッスルとは具体的には、首の表面にある筋肉です。
大声を張り上げると首すじに血管が浮く方もいると思います。
この首すじ部分の力は、歌には使いません

声帯付近や、そこに関係するインナーマッスルを使って、歌は歌います。

話し声が「喉声」の傾向にある方は、アウターマッスルを取り除くことが難しい場合もあります。
普段の話し声から気をつけていく必要があるかもしれません。

ミックスボイスの発声は普段の話し声と切り離された発声ではありません。
少なからず話し声の延長線上にあります。
話し声で悪い癖があると、歌声にも影響を与える可能性が高いです。

矛盾しますが、ミックスボイスは話し声とは全く別の「歌のための筋肉」を使うことも事実です。
話し声やチェストボイスで悪い癖を持っている場合は、それを取り除きましょう。
そして、その美しい発声のままでインナーマッスルを使って高音へ移行するようにしましょう。

腹式呼吸をマスターする

腹式呼吸は、ミックスボイスの発声においての最重要ポイントではありません。
しかし呼吸が発声に悪影響を与えている場合は、それを防ぐ必要があります。

腹式呼吸とは

歌うとき、息は少しずつ使う ボイストレーニングの現場で、「腹式呼吸」はよく使われる言葉です。では、歌手はなぜ腹式呼吸をする必要があるのでしょうか。 腹式呼吸の目…

歌の呼吸をするときに、首の筋肉を使っている方を時どき見ます。
これは歌にはふさわしくありません。
先ほど話したように、アウターマッスルは歌には必要ありません。

また胸が上下や前後に動く呼吸をすることも、首の緊張を生み出します。

理想的な呼吸法で歌うことは、とても難しいです。
しかし、歌わずに腹式呼吸を単体で行なう分には、それほど難しくありません。

呼吸での身体の動きを理解すると、腹式呼吸はとてもシンプルです。

腹式呼吸がまだ出来ていない方は、まずは腹式呼吸を修得しましょう。

呼吸時の横隔膜と肋骨の連動

自分自身の身体の仕組みは知ることは、歌においても役に立ちます。特に呼吸については、理屈を知っているだけでよい方向に行くこともあります。 理屈を知っていると無理な…

喉頭を操作しない

「喉頭を操作しない」ことも大切です。

喉頭は上げるのでもなく、下げるのでもなく、「自然な状態」であることが理想的です。

喉頭を操作しないことは、人によっては大変難しい作業になります。
出来るようになるまで、時間がかかるかもしれません。

低音域では問題ないが「高音に移行するときに、どうしても喉頭が反応してしまう」という方も多いでしょう。

また普段話すときに、喉頭を少し上げて話す方もいます。

原因や解決方法は様々ですので、ご自身のボイストレーナーと一緒に解決してください。

地声、裏声の単体でリラックスした歌い方を身につける

今までお話しした
「顎の下の筋肉を柔らかくする」
「アウターマッスルを使わずに、インナーマッスルで歌う」
「腹式呼吸で歌う」
「喉頭を操作しない」
これらの方法で、まずは「地声」と「裏声」をそれぞれ上手く歌えるようにしてください。

裏声を出すときに、アウターマッスルを使ったり喉頭を操作したりすると、ミックスボイスの発声にも影響を与えます。

「裏声は美しくないが、ミックスボイスは美しく出せる」
「チェストボイスは力むが、ミックスボイスはリラックスして出せる」
というようなパターンは、ほとんどありません。

地声・裏声の発声に悪い癖を持っている場合は、まずはその癖を取り除きましょう。

ミックスボイスのコツは地声に頼らないこと

最後にミックスボイスのコツとして大切なことは、「地声に頼らない」ことです。
パッサッジョ付近になると、そのまま声を維持することが辛くなります。

パッサッジョを越えて高音へ移行するときに、地声に頼らないことが大切です。
ここで言う地声とは、チェストボイス音域の歌声というよりは、話し声のことです。
決して話し声の筋肉に頼らないようにしましょう。

頼る場所は、歌声の筋肉です。

地声(話し声)に頼ると声量が上がって声が破綻してしまったり、声が詰まって苦しい発声になったりします。

「裏声の感覚」と「力強い地声の感覚」

ミックスボイスの感覚は、裏声の要素を含みます。
しかし、裏声のようにフワッとした感覚ではありません。

「裏声の感覚」も「力強い地声の感覚」もある不思議な場所が存在するはずです。
それを見つけることが鍵となりますが、それは独特な感覚です。

感覚は人それぞれ異なりますので、言葉や文章で正確に表現することは難しいものがあります。
また今まで使ったことがない人にとっては、一人で見つけることは難しいかもしれません。

しかし、この感覚が見つかれば、発声はどんどん安定してきます。
この「歌う筋肉」を頼りに、低音から高音まで歌えばいいのです。

この感覚をご自身のボイストレーナーと一緒に見つけていってください!

デモ演奏

講師の演奏動画

糸/中島みゆき Nessun dorma/オペラ「トゥーランドット」より 高嶺の花子さん/Back number Forever Love/X JAPAN Follow me! 関連記事ミックスボイスを出す前に「やってお…

Follow me!